幽斎

ミストの幽斎のレビュー・感想・評価

ミスト(2007年製作の映画)
5.0
このレビューを書くに辺り作品を見直して、時間の経過と共に再発見も有り感想は当時と異なる。本作は「史上かつてない震撼のラスト15分」と言う宣伝文句で、確かにラストの衝撃はトラウマ以外の何物でも無い。しかしStephen Kingの原作では「主人公達はその後無人のガソリンスタンドを見つけ、燃料と食料を補給した後、再び車で走り去って行く」と言うもので、結末は曖昧なまま。こんな結末を用意したFrank Darabont監督、貴方ねぇ(笑)。

この作品を語る上で、私達日本人が思慮するべきはキリスト教の考え方だ。キリスト教では死刑は認めず、人を裁くのは神のみ。と言う大前提で成り立っている。反省させ、もう一度チャンスを与えるのが基本だからだ。しかし、この物語でも実生活でも人が人を裁く事に何の躊躇いも無いのは如何なものかと、作品は問い掛けている。作品に登場する様々な事象や物体は、我々人間の姿を別な意味で表してると言える。神の様に振る舞う人間たちに対する、痛烈な皮肉が結末へと繋がって行く。

監督はインタビューでMarcia Gay Harden(ミセス・カーモディ)が撃ち殺される時、銃弾が2発発射される。これは、とどめを刺すと言う意味では無く2度目を撃つことで観客を正気に返らす為だと語っていました。ニクイ演出です。

私は友人とこの映画を語る時、男性と女性で随分と結末の解釈に違いがあるものだと思いました。男性はただラストの結末に打ち拉がれるだけでしたが、女性は賛否両論で、それだけ女性は「生きる」と言う事に真摯であると思います。キーポイントは冒頭に登場した母親です。彼女は家に残した息子を助けるべく1人で霧の中に消えて行きます。それはスーパーで誰も助けてくれなかった事に端を発します。主人公は結果的に息子を殺してしまいました。しかし、この母親は息子を助け無事保護されてる事が判明しています。

「息子を助けられなかったのは仕方ない」と言う前提を本作では全面的に否定しています。それは、この母親の最後の表情からも明らかです。だからこそ、ラストで霧が晴れ助けが来ている事を明示する事で、絶望の度合いの解釈も見る側で違って映るのです。私は初見では主人公の行動が阿保らしく思えました、だって「霧」って位ですから、何時かは晴れるだろうと。しかし、再見する事で「だから子供を殺していいんだ」とは成りえない事は明確に語られています。ですから本作はホラーでもスリラーでも無く、立派な「ドラマ」だったと言う事です。

人が人を裁くことの是非、運命とは身を任せるのではなく切り開くもの。語られ尽したテーマを見事に昇華した優れた人間ドラマでした。もし、未見の方は翌日が休みの日に御覧下さい。
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