ひでぞう

ルシアンの青春のひでぞうのレビュー・感想・評価

ルシアンの青春(1973年製作の映画)
4.7
 レジスタンスの直線的で英雄的な人間像からでは、ルシアンの姿は視野に入ってこないだろう。ルイ・マル監督の優れた人間理解に感銘を受ける(脚本が素晴らしい、あのノーベル文学賞を受賞した、パトリック・モディアノ!!)。主人公:ルシアンは、思想的に未熟な状態であり、状況に流される。居心地の良い場所としてドイツ警察の手先(正確には、カーリンゲ=フランスのゲシュタポ)を選んだに過ぎない。次第に、身の丈を越える「権力」を得て、ユダヤ人の仕立屋オルンの美しい娘フランスを見初めて、オルンの家に入り込んでいく。フランスと「恋仲」になったように見えるが、そうではない。父親が、フランスを「売春婦」呼ばわりするところに、悲しみがある。「私たちは弱いのだ」という言葉にすべてがあらわれている。弱いが故に、ルシアンに迎合せざるを得ない(これは、まさに、ドイツに占領されて従わざるを得ないフランスのことだ)。だから、祖母は決して、ルシアンと言葉を交わさない。しかし、ルシアンはこうした痛みに全く無頓着で何もわかっていない。未熟さゆえの傲慢さだ。
 しかし、収容所へ連行しようとするドイツ兵を、ルシアンが射殺し、フランスと祖母とを助けてスペインへ逃れようとする。ここにいたって、ようやく、「恋仲」となり、美しいシークエンスが生成される。祖母と「おやすみ」を交わすシーンも好ましい。しかし、それは、つかの間の「幸福」であった。
 ルシアンの未熟さ、傲慢さ、いじらしいまでの恋心、青春というものの持っている、はかない一季節が、スクリーンに描かれる。その未熟さゆえに、弱さゆえに、私たちの心に実感をもって迫ってくる。秀作。
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