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ヘルプ!4人はアイドルのshxtpieのレビュー・感想・評価

ヘルプ!4人はアイドル(1965年製作の映画)
3.5
1. ザ・ビートルズの 4 人は、 1964 年の 8 月にボブ・ディランと会い、マリファナのたのしみを教わったそうだ。『ヘルプ!』の撮影中、彼らはマリファナをしこたま吸った、と明かしている。やけにハイテンションだけれど、なんとなく目が据わっている感じがするのは、そのためだろうか。

2. 撮影は 1965 年 2 月、バハマのシーンから始まり、 4 月まで続いたという。『ア・ハード・デイズ・ナイト』よりも、予算はちょっとばかり増えて、フルカラーで、かなり金がかかっていそうなセット撮影を多用し、海外ロケもしまくる、というぜいたくなつくりになっている。そして、その蕩尽っぷりは、しっちゃかめっちゃかなプロット、脚本を加速させているようにも思える。実際、ザ・ビートルズの 4 人はプロットを理解していなかったし、わたしたちがいま見てもほとんど意味がわからない。

3. 『ヘルプ!』には、あきらかにアウトな描写がたくさんある。インド文化の描きかたかたはオリエンタリズムをこえて差別的ですらあるし、ポール・マッカートニーが水着姿の女性を楽器に見立てて「弾く」というとんでもないシーンもある。『ア・ハード・デイズ・ナイト』にもきつい容姿いじりがあったけれど、『ヘルプ!』は度を越してしまっていて、今の価値観で見るとかなりくるものがある。こういうものとどう向き合っていけばいいのか。べつに重く考えているわけではないけれど、当時は無邪気だったんだなと、なんともいえない気分になる。

4. ヌーヴェルヴァーグ、というよりもジャン・リュック・ゴダールのスタイルを直接的に思い起こさせる、ヴィヴィッドな三原色を配したシーンがまぶしい(『ヘルプ!』の公開の 4 か月後に『気狂いピエロ』が公開されているのだから、すごい時代だ)。あと、ザ・ビートルズの映画といえば、マルクス兄弟がよく引き合いにだされるスラップスティックコメディっぷりが魅力だけれど、『ヘルプ!』の不条理さと奇妙なエレガンスは、ルイス・ブニュエルのそれによく似ている。それと、あきらかにモンティ・パイソンを先取りした、落ちずに浮遊するアイロニカルで超現実的な諧謔が、あまりにもパワフルだ。ブリティッシュコメディ、英国的なユーモアとはこんなに力強いものなのか、とあらためて思い直す。

5. 演奏シーンというか、ザ・ビートルズの曲がつかわれているシーンは、そのすべてが掛け値なしにすばらしい。とくに、冒頭の「ヘルプ!」。ダーツの矢をスクリーンに投げる演出は鮮烈で、驚かされる(リチャード・レスターは、スクリーンの多層化といえばいいのだろうか、こういう演出をよくやる)。それから、あまりにもクールな「ユア・ゴナ・ルーズ・ザット・ガール」。オーストリアで撮影された「ティケット・トゥ・ライド」とスキーの取り合わせは、パーフェクトだ。涙がでるほどに、ザ・ビートルズの音楽と画が、奇跡的なマリアージュを遂げている。見るからに寒そうなソールズベリー・プレインでのシークェンスもたのしい。リチャード・レスターは、ザ・ビートルズを撮らせたら天才なのだ。

6. なんと、現行の DVD や Blu-ray は、スタンダードサイズだった映画の上下をトリミングしてぶったぎったビスタサイズなんだとか。ひどすぎる。オリジナルのアスペクト比で見せてくれ。
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