【存在と絶望】
人間という生き物。
知性や理性とはかけ離れた存在である。
期待すれば失望を与えられる。
信用すれば裏切られる。
与えようとすれば無制限に奪われる。
許しがあると思えば平気で悪事を働く。
弱者を救済すると言って虐げる。
自分を正当化し平気で嘘をつく。
都合の悪い者は躊躇なく闇に葬る。
人間はこちらが強く勢いがある時は媚び擦り寄ってくるが、一転して、こちらが弱者の立場になると、嬉々として攻撃的になる。
世間をうまく渡って、良い人間関係を築くのはとても難しい。
また、他人との距離感も難しく、懐に入りすぎると取り込まれるし、懐に入れすぎれば、内側から食い破られる。
与えるということ、許すということは、確かに大切だ。
しかし、それだけでは人生を全うすることは難しい。
自分が自分であり続けるためには、許しを与えず、非情に奪うことも必要となる。
尊厳を奪おうとする者がいる以上、対抗する術は力以外ないのだから。
この作品は、人間が如何に愚かで身勝手で、欲深く、そして根拠もなく特別で安全だと思い込んでいる、愚かな存在であるということを目の当たりにしてくれる。
世の中には善人も悪人も居ない。
ただ、中途半端でどうしようもない人間が存在しているだけだ。
ラストシーンは確かに胸のすくものではあるが、私はどちらの立場だろうと考えると、あまり後味は良くない。
しかし、私は最後の選択を支持したいし、現代の群衆に、誰かが同じ結末を強いることを密かに期待しているのかも知れない。
私もまた、人間なのだなぁ。
女優としてのニコール・キッドマンの魅力が全面に発揮されており、それだけでも観る価値のある作品である。
演劇風の演出は好みの分かれるところかも知れない。
映画館を出る時、あなたはどんな気持ちになっているが、お試しいただきたい。