ダンクシー

ストレンジャー・ザン・パラダイスのダンクシーのレビュー・感想・評価

4.1
「ウィリー…悪い予感がしたよ。ブダペストで何をするんだ?」

このオフビート感がたまらねぇ。ストーリーはほぼ無いも同然というか。そこまで重要じゃないんですが、なんでこんなにも見入ってしまうのだろうか。退屈かと言われたら退屈なんですよ、特に何も起きないから。でも、ジム・ジャームッシュの作品って独特のユルさも勿論魅力なんだけど、結局映像センスに満ちている。日常をそのまま描いている。いつもの何気ない日常って描くのは至難の業なんだけど、こうも見事に描かれるとぐうの音も出ませんね。中々お互いのやることなすこと考えてることがどれも噛み合わずすれ違ってしまうという可笑しな話なんだけど、とてもリアル。ロマンチックでもなくドラマ性もないが、自然と惹かれあっていく男女。パラダイスと思っていたフロリダに行こうが、結局パラダイスなんてねぇんだよと。現実を見ろと。ダメ人間って、結局何してもダメなんだよね。でも、そんな些細な毎日が微笑ましくて、魅力的に映る。最低限の演出だけで、日常の中で少しずつ変化していく様をじわじわと描く撮り方は、優しさを感じさせ、我々の日常も案外いいのかもと思わされる。

ジム・ジャームッシュ作品のポスターは、ほとんど劇中にある場面のスチール写真。個人的には、どの場面のスチール写真を使っても様になってしまうのが彼の作品だ。全てのカットが絵になる。空間や小道具の使い方、画面の構図、全てが計算されている。基本、ワンシーンに対しワンカットの長回しカメラワーク。暗転こそ多用されていたが、そんなのも気にならないくらい全てのシーンがたまらなく愛おしい。彼の作り出す空気感とリズムが、なんとも心地いい。俺はもう完全に虜になっている。
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