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欲望の翼のsayasのレビュー・感想・評価

欲望の翼(1990年製作の映画)
4.5
何気ない日常を切り取ったようなリピートされるオープニングと音楽の使い方はジム・ジャームッシュを感じた。

「花様年華」「2046」へと続く、60年代3部作への序章となる作品で、本作は彼が監督する2作品目。
ウォン・カーウァイの独特のスタイルが確立された原点である。

撮影のクリストファー・ドイルの運命的な出会いがあったからこそ。スローモーションやカッティングを多用した独特なカメラアングル、画面を覆う倦怠感、斬新な色彩感覚、時代を感じさせるラテンメロディーなど、どれもが実に効果的。

60年代の香港。若者6人の出会いと恋、夢と運命を描く。幕開けから熱帯林の映像から始まり、暑ぐるしい熱帯夜のような作品で、気怠さと登場人物たちの徐々に嵩じていく焦燥感とが映画全編を支配していた。

濡れた瞳で儚げに微笑むレスリー・チャンの顔が胸を締め付ける

夜の番人アンディ・ラウの地に足着いた大人の余裕

警官に扮するアンディ登場の序盤は良い具合に光の陰影でなかなかお顔を見せてくれないからミステリアスな男感が漂っていて焦らし方がお上手で...

好きな女に振られても相手にされなくてもとことん一途でめげない片思いの男ジャッキー・チュン(彼には同情してしまう...こんなにも彼女を好きなのに...)

咥えタバコに髪にポマードを撫で付け、ラッキーストライクと札束をポケットイン...トニー・レオンの惚れ惚れする全ての所作

「今夜、夢で会おう。」
「1960年の4月16日、3時前の1分間、君は俺といた。この1分を忘れない。」

カーウァイ作品は何気ない一言が印象に残るなあ。

中国への返還直前(イギリス領だった香港が中国に返還されたのは1997年)でやや興奮気味の、刹那的で妙なエネルギーが満ちあふれていた混沌とした街・香港を肌で感じた。

彼がつくり出す映画の空気感は誰にも真似できない。一貫した美意識による撮影・美術・衣装にロマンティックなセリフの数々に陶酔、まるで夢を見ているような...刹那的・破滅的・退廃的・エモーショナルこれぞ唯一無二。
沼落ち確定。
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