アニマル泉

13号待避線より その護送車を狙えのアニマル泉のレビュー・感想・評価

4.5
清順が監督になって4年目の1960年の作品。この年になんと5本も撮っていて、本作の次に「けものの眠り」「密航0ライン」と続く充実ぶりだ。縦構図がいい。冒頭のタイトルバックは夜の道の前進ショット、アルドリッチの「キッスで殺せ」を彷彿とさせる。夜の縦道、歩道橋、線路の引込線、縦構図が強調される。白眉は水島道太郎と渡辺美佐子がタンクローリーもろとも爆発されそうになる場面だ。運転席で二人が縛りつけられてタンクローリーが走り始める。タンクの蛇口からガソリンが流れている、安部徹がガソリンに火をつける!ガソリンの火がタンクローリー目がけて走る、運転席では渡辺美佐子がライターの火で縛られた縄を燃やして脱出を図る、迫るガソリンの火、危機一髪!火がガソリンを辿ってまっすぐ縦に走るのがいい。本作は「火」の映画でもある。小沢昭一のライターが小道具として活躍する。
清順のアクション映画は自動車と銃だ。トップシーンの護送車を襲う場面、トラックが坂から走り出して護送車にぶつける、止まった護送車へ一斉に射撃する。車をぶつけて標的の走行を止めるのは清順の十八番だ。音楽が軽快に煽る。トップシーンの襲撃場面は音楽で丸々くるんでいる。銃撃を逃れて水島が走る自動車につかまって、そのまま引き摺られていくショットも凄まじかった。
舞台は新宿と珍しく熱海、御殿場の保養地だ。小沢昭一が富士山バックで撃たれる。渡辺美佐子のアーチェリーが面白い。ライフルやアーチェリーなどの「距離」も清順の重要な主題である。本作でも熱海のストリッパーは矢で射られる。
本作の犯罪はストリッパー達の外国への人身売買だ。黒幕のサングラスのクローズアップが印象的だ。「殺しの烙印」につながっている。ストリップの舞台がガラスごしに見える事務所は「野獣の青春」の予告だ。水島が阿部に黒幕の居場所を迫る場面、ピアノの蓋を阿部の腕にガーン!と響かせながら打ち下ろし、そのまま腕を締めあげて自白させるのも鮮烈だった。
ラストの夜の引込線のアクションが素晴らしい。列車の煙、縦構図、距離を介した撃ち合い、そして最後は列車だ。光と影の見事なフィルムノワールである。フライシャーの「札束無情」を思い出した。
しかし、清順の編集はわかりにくい。余計なアップが入るのだ。さらにジャンプカットで位置関係がわからない。例えば本作のトップカットは夜の引込線のロング、ライフルのアップ、スコープで浮かび上がる標識のアップ、山道を護送車が走ってくる。あれ?引込線は?となる。トップカットの引込線は実はラストのクライマックスの感覚的な先取りなのだ。これでは混乱する。しかし清順はお構いなしだ。水島道太郎が新宿の歩道橋で昭子(夏今日子)を捕まえる場面も変だ。道上で逃げ切れたと安心した昭子、直結で驚く水島のアップが何故か突然挿入される、飛び降りる昭子、道下のロングで水島が昭子を捕まえる。水島のアップの挿入はミスカットのようである。過剰なのだ。これも清順的だ。水島の驚く顔を入れることで複数の流れが出来てしまうのだ。
芦田伸介が不気味だ。助監督・武田一成。
白黒シネスコ。
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