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プンサンケ/豊山犬のodyssのレビュー・感想・評価

プンサンケ/豊山犬(2011年製作の映画)
3.0
【キム・ギドク脚本としては惜しい】

タイトルのプンサンケは、豊山犬と書き、北朝鮮に産する獰猛な狩猟犬の一種だそう。一度噛みついた獲物は離さない犬だとのことで、ここではヒーローを暗示しているのでしょうか。

正体不明の運び屋がヒーロー。北朝鮮と韓国の国境を突破して人やブツを運ぶ仕事をしています。たまたま、北朝鮮から韓国に亡命している男性に会わせるために、北朝鮮に住んでいた彼の恋人を南へ運ぶのですが、この女性がやっかいな人で、途中でへまをするし、一度は川でおぼれかけてヒーローが人工呼吸をしてどうにか甦らせます。で、人工呼吸ですから、必然的に口と口を合わせるわけで、そのせいもあってか、彼と彼女との間に微妙な感情が芽生えるのです。

この映画は、その二人を軸に、北朝鮮から韓国に侵入しているスパイと、逆に北朝鮮情報をかぎ回っている韓国の秘密警察の対立、そして二人がその対立に巻き込まれていく様子を描いています。

国際的な評価も高いキム・ギドク監督が、ここでは監督は他の人にまかせているものの、脚本を書いています。そのせいか、人間同士の濃い感情は鮮明に描かれているところはそれなりです。

ただし。この種の映画は政治が絡むわけで、その点で見て問題含みなのではないかと感じました。この映画を見る限りでは、ケンカ両成敗的に、韓国の秘密警察も北朝鮮のスパイも同じように描かれているのですが、そういう描き方で南北朝鮮の対立が片付くとは思われないし、そもそもこういう映画は韓国だから作れるわけで、北朝鮮でこんな映画を作ったら、よくて刑務所行きか追放処分、悪ければ銃殺ものでしょう。

私は別に、韓国に荷担して作れと言いたいわけではないのです。この種の問題を描くからには、もっと具体的なテーマを設定して、そこに韓国と北朝鮮がどういう絡み方をしてくるのかを緻密に展開して欲しい。ケンカ両成敗では、何かを言っているようで実際には何も言っていないに等しいのです。キム・ギドク監督に限りませんが、映画人はしばしば幼稚な政治観しか持っていません。それがこの作品からもうかがえるとすれば、天才キム・ギドクのためにも惜しいと思うのです。
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