たけちゃん

ウェイバック 脱出6500kmのたけちゃんのレビュー・感想・評価

ウェイバック 脱出6500km(2011年製作の映画)
3.8
"優しさ"は身を滅ぼすぞ……


ピーター・ウィアー監督 2012年製作
主演ジム・スタージェス


勝手にお知らせシリーズ「今日は何の日」
今日は8月22日です。
でも、今日の話題は22日のみのことではなく、8月11日から25日にかけて行われた「樺太の戦い」についてです。少し昔話になります。

ご存知かもしれませんが、僕は北海道に住む道産子です。戦後生まれですので、直接、戦争に関わったことはもちろんありません。それでも、近所のお世話になったおばちゃんが、実は樺太からの引揚者であったり、全く縁がない、ということもないんです。
ある時、おばちゃんが珍しく昔話してきたことがあり、「樺太から逃げてきたのよ~」「たくさん人が死んだのよ~」と聞かされました。子供だった僕はほとんど意味も分からず聞いていたのですが、後になって「樺太の戦い」のことを知り、おばちゃんを思い出しました。そのおばちゃんは後に引っ越して行ったので、今、どうしているかは分かりません……。

樺太について知ったのは、おそらく「氷雪の門(1974)」だと思います。"真岡郵便電信局事件"を扱ったこの映画、僕は公開当時に観ています。子供だったから難しかったけどね。調べてみたら、公開に当たってソ連側からの抗議があり、全国公開は縮小されたようで、2010年になり全国公開されました。でも、地元だったからなのかなぁ、僕は観てるんですよね。舞台となった稚内市では入場者数最高記録だそうですから……。

この映画以来、「樺太の戦い」についても調べるようになり、終戦時に2人とも小学生だった僕の両親はもちろん道産子。ソ連軍の侵攻によりひょっとしたらソ連領になっていたかもしれない北海道です。今の韓国・北朝鮮のように割譲されていたかもなどと考えましたよ。いずれにせよ、そうなれば、両親が出会うことも無く、当然、僕も生まれることがなかったかもしれないなぁ……なんて考えていました。タラレバですが……。


【簡単に樺太の戦い】
元々、日本とソ連は1941年に「日ソ中立条約」を結んでいて、5年間は不可侵の関係だったが、ポツダム宣言への参加を表明して条約を一方的に破棄、1945年(昭和20年)8月9日に対日参戦を布告、11日に南樺太占領作戦を開始しました。
まぁ、背景には連合国軍との密約があったようですが、ここでは深掘りしません。

ソ連としては樺太の後に北海道へと侵攻し、日本の降伏前に領土としての既成事実を作ろうとしていたようだが、それは最終的に断念しました。良かった♡
8月11日に侵攻を開始したソ連軍はあっという間に樺太を陥落させていきました。8月15日にはあの"真岡郵便電信局事件"なども起こりました。ただ、ソ連軍が日本軍の予想以上の抵抗にあったのも事実で、"占守島の戦い"と共に北海道侵攻を断念した戦いと言われます。今の北海道は大きな犠牲の上で手に入れたものと言えますよね。

ポツダム宣言受諾後もソ連は樺太侵攻を継続し、18日にトルーマン大統領が北海道占領を認めないとソ連に対し通達したため、戦いは22日に作戦終了が告げられ、ついに終わりました。樺太・北海道の終戦はこうして迎えることが出来たのですね。これが8月22日にレビューした理由です。
そして、この戦いを生き残った者たちは捕虜としてシベリヤに送られることになるのです……。


付け加えて、こちらの紹介も
【ピーター・ウィアー】
1944年8月21日、オーストラリアのシドニーで生まれました。今日で77歳になりました。詳しいバイオグラフィは分かりませんでしたが、作品は好きなものが多いですね。
最初に観たのはハリソン・フォード主演の「刑事ジョン・ブック 目撃者」ですね。アーミッシュという人たちがいることを学びました。
その後は「モスキート・コースト」「いまを生きる」「トゥルーマン・ショー」「マスター・アンド・コマンダー」など良作を撮っていますよね。堅実な監督さんという印象です。
この「ウェイバック」の後に撮った作品はないようなので、引退されたのかなぁ……。








さて、映画です。
実はこの映画のこと、全く知りませんでした。
見つけたのはたまたまなんです。
今日は何の日シリーズで何を観ようかなと思っていた時、8月21日が「今を生きる」を撮られたピーター・ウィアー監督の誕生日だと知って、作品をチェックしていたんです。その中で「ウェイバック」を知り、主演はジム・スタージェスね。おや、シアーシャ・ローナンが出てくるのか?エド・ハリスやコリン・ファレル、マーク・ストロングも出てるの?なんてことで興味を持ったら、シベリア抑留者が逃亡する実話ものだというじゃないですか。なんと、タイミングピッタリ!
北海道ではないけれど、シベリア抑留に関する映画なら、関連ありだな~。それならってことで手に取りました( ´ω`)و グッ!


この映画は1941年にヒマラヤを越えてインドに到達した3人の男に捧げられています。実話に基づいているようですが、全てが実話というわけではなさそうです。以下、多少ネタバレです。





主人公はジム・スタージェス演じるヤヌス・ヴィスチェック。1940年にシベリヤ送りになり、7人の仲間と共に逃亡しました。ポーランド軍人でチームのリーダー的存在。
木の皮を剥いで、カンジキを作るとかすごいよね。本当に冬山の知識がある。確かに、山慣れしていないと絶対に生き残れない。

エド・ハリスが演じるアメリカ人のミスター・スミス。ポーランド人の中に交じるアメリカ人ですので、孤独な、というか孤高の存在で、めちゃカッコ良かったです。

コリン・ファレルはウルキと呼ばれる収容所を仕切る犯罪集団のメンバー、流石の悪人……と終わったら一緒に脱走することに。

だんだんとやつれ、しわがれていく様が凄い。
バイカル湖に辿り着いた段階で集団農場から逃げてきたイリーナ合流。演じるのはシアーシャ・ローナン。こんな中にいても可愛い😆

モンゴルに着いて、コリン・ファレル演じるヴァルカと別れる。モンゴルも共産化されていることを知り、その先、ゴビ砂漠を通り、さらにチベットを越えてヒマラヤ山脈を抜け、インドへと向かうことに……
「アラビアのロレンス」のような砂漠の風景
こんなところで生き残れるわけがないよねぇ……

ひとり、またひとりと仲間が去っていきます
モンゴルに入るところでヴァルカが
ゴビ砂漠ではイリーナ
さらに絵描きのトマシュ
そして、チベットでミスター


自由を求めるというのは、これほどまでに辛いことなのか、それまでしても価値あるものなのか、そんなことを考えてしまいました。ただ、ヤヌスはこう言うんです。「でも、自由の中で死ねる……」と。

映画としてはかなり淡々としています。
サバイバル映画なので、戦闘シーンもほぼ無し。
そのサバイバルも、特に、後半は駆け足でした。
でも、こうして生き延びた人がいることも事実。
ラストシーンのためにあった2時間でしたね。ヤヌシュは"優しさ"を失わずに生き延びました……