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ライク・サムワン・イン・ラブのuracoのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

高梨臨のおばあちゃんは孫に会いに東京に来ているの、という留守電だけを朝から数時間おきに5件くらい残していて、これが程よく可哀想に思えずイライラするでもない。最後の留守電でおばあちゃんは新宿の駅前で待っていますって言うから高梨臨は乗っていたタクシーの運転手に言って寄ってもらうんだけど、なんかあれそうじゃないみたいな後ろ姿しか見えなくて、高梨臨も一応泣いてみてるけどわかんなくない?みたいな、こいつらあ、あそう、ふーんみたいな、ここでたぶんこの人らと観客の距離感ってはっきり決まるんじゃないかと思う。高梨臨は手配されたジジイの家に着いて、この仕事長いのねと思わせる小慣れた口調で話題をポンポン変えながら大して中身のない話を続けていて、着いてからをずっとカメラで追っているからそれをただ眺めるんだけど、この観客の巻き込まれなさが心地がいい。
寝て起きて大学に着いて加瀬亮が出てくる。加瀬亮はもちろん話が通じない役で、それだけだったらジジイを心配しちゃうところだけどジジイも加瀬亮に対する受け答えでいちいち余計なことを言っていて、だから観ている側はやっぱり風景として観れる。試験があると言って高梨臨は大学に来たわけだけどジジイと加瀬亮が話している20分くらいでもう帰ってきちゃって、はやくない?というのがありつつ案の定3人で気まずい感じのドライブシーンになる。
ジジイは横浜にあるらしい家に途中居眠りしちゃったりしつつ帰ると、使っている駐車場に併設した建物に住むババアが話しかけてくる。取り留めもない話が不快感を伴って永遠と続くんだけどジジイが いなしているからこのババアもやばいのねっていうのが確信できて安心する。家に帰ってから昨日高梨臨に振る舞う予定だったスープを眺めて呑気にボンヤリしつつ、高梨臨から緊急事態らしい電話で助けを求められて再度都内の大学近くまで運転。高梨臨はとりあえず顔から出血していて、その後ろで警察とかも居るけどこれは別件なの?もし関係しているなら聴取とかあるんだろうし残ったら?と思うところを構わずジジイは高梨臨を連れて家に帰る。移動のシーンは端折っているけど実際にはけっこう時間がかかっていそうだなと思う。ジジイは傷の手当てのために薬局に出掛ける。さっきのババアが居るんだから家にあるもので済ませてほしー。高梨臨とババアのシーン。ババアはちょっと前にジジイにシカトされちゃってるからここではいっぱい喋る。ババアはやっぱりやばくてどうやらジジイのストーカーなんだけど、ババアへの不安感を加速させるのが、障がいがあって家から出られずババアが介護しているっていう弟の存在で、叫び声だけが聞こえるんだけど、この家族への目の背けたくなさが心のなかでゆっくり滲んでいってすごい嫌な体験。薬局からジジイが戻ってようやくババアから開放されるんだけど家に入ってから加瀬亮も来ちゃって、加瀬亮は最後まで画面に映ることがないのがすごい。映すとか映さないとかはどっちでもいいくらいに加瀬亮は間違いなく家の周りに居るというのが分かるから。
全部で10個ないくらいの少ない場面の密度がそれぞれすごく大きいと思う。街でちょっと不穏そうな場面を遠くから見ているときみたいな、画面を隔ててこっちは安全だろうというのを持ったままで観られるところが心地がよくて良いと思う。
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