くまがい

ライク・サムワン・イン・ラブのくまがいのレビュー・感想・評価

4.2
キアロスタミは「黄桃の味」とジグザグ道三部作しか見ていないからなんとなくあの世界観でもって日本を描くのだろうかと思っていたのだけれど、別にそういうわけではなかった、舞台も年代も隔たっているのだから当然かもしれない。それにしても途中まではなにを見せられているのかと思った、まず会話が聞き取りにくいし、その内容もかなり薄い、さらにはあえてなのかが判別できないぐらいの素人感(過度な芝居のようにもまったくの非芝居のようにもとれる)、もしかしたらこれは本作に限らないキアロスタミ的な演出で、イランなんかを舞台にしている作品も現地のひとにとってはこういうふうに映るのだろうかなどと考えた(ただそれがキアロスタミ的なものだとするとそれをまったく異国の異文化のなかで再現することができるのか、日本人にはどのように見られるのかということを理解できるのか、という点が疑問だから、別にそうじゃないのかもしれない、これは多文化の感覚までをわかっているひとじゃないと判断できないのだろう)。ただ主人公が居眠り運転をしてしまうあたりから急速に、これはなにかが起きているぞという感覚が湧いてきて、隣人が画面外からの声として現われたのち、その窓硝子越しのショットが映されたときには、いままでの(虚言という物語的内容を超えた)嘘っぽさが意図的なものとして立ちあがってくる感じがした。そこからラストまではもうほんとうに最高なのだけれど、会話の聞き取りづらさゆえにかなり音量をあげていたから、硝子が割られたときにはほんとうにほんとうにびっくりした。
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