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天保水滸伝 大原幽学のotomisanのレビュー・感想・評価

天保水滸伝 大原幽学(1976年製作の映画)
4.3
 知らなくて当然な大原幽学だが、博奕を戒める教えのせいで飯岡の助五郎親分とは反目あり。ついでに十手捕り縄を預かる親分は農政家幽学を取り締まる側にも付いてたか。幽学はともかく座頭市や天保水滸伝で知られた助五郎、悪名が先立つところ更なる不評が付く事になった。
 実は幽学の伝記映画だが、そのまま記しても見向きもされまいから天保水滸伝を助っ人に頼んだか、いい塩梅だ。おもしろいからごらんなさい。
 侠客、助五郎と繁蔵とは博徒だから幽学とは相容れないのは分かるが、平手造酒をどうするかと思いきや浅丘ルリ子を挟んで幽学に向かい合わせたのがうまかった。もちろん幽学に浮いた話は毛ほどもあらわさず、女二人、世間ずれしたルリ子の幽学への傾倒の過程と神主の妻女で武家の出の香山美子の私淑を通して、自ずと幽学の人となりを物語る格好としている。
 とりわけ、父ちゃんの博奕の負けで借金のかたに繁蔵のもとに身を沈め平手とも昵懇になったルリ子の年季明け、擦れっからしても亡き亭主への思慕から帰農はするも、幽学の協同組合論には極潰しの親父のためしからハナも引っ掛けない。これが幽学の活動を横目で見ながら考えが変わってゆくというので、これでちっとは幽学を分かりやすくしている。
 結局、飢饉も事件も多発する時代の不穏さのなか幕政と容れず禁圧された組合で、幽学自身も話の最後の捕縛後数年で自殺してしまう。それで何が遺ったなどと人に問うなかれ。この映画を見よ。幽学が遺したことが問題ではない。観て君自身に何が遺るかその事こそ問われることである。
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