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恋人よの一のレビュー・感想・評価

恋人よ(1964年製作の映画)
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千恵子が歌うご機嫌な曲に乗せてスタート。彼女が働く小規模出版社は和やかな雰囲気だし、婚約者・吉田輝雄と綺麗な夜空を眺めたりなんかして、『恋人よ』なんて甘いタイトルだし、ほんわかした青春恋愛ドラマが始まるのだろうと思ったら大変な間違いで、ある朝を境にして、経営者交代に端を発する疑心暗鬼の社内政治がイヤーなかんじで展開していくのである。輝雄は里帰りしてしまい中盤は登場すらしない。なにこれ。平穏な社会生活が剥ぎ取られ、今の自分に何が出来るか今の自分にはどれ程の価値があるのか、否が応でも現実を突きつけられる千恵子はじめ若い社員たち。竹脇無我は孤児院育ちだったり、芳村真理は家族が精神病だったりと、彼らの生い立ちが無駄にハードなのにも困惑させられる。そんな三人(みんなクビ)が遊園地ではしゃぎ回るシーンとか、そのあとの芳村と無我のベッドシーンとか、どうしようもなくてすごい良い。したいけど処女死守千恵子とセックスお預け輝雄の俯瞰ショットもいかんともしがたさがスゴい。脚本も兼ねる監督の二本松嘉瑞はこれが監督第一作で、その後は『宇宙大怪獣ギララ』とか撮ったくらいでキャリアが潰えているのだが(Wikipediaでも生死不明という始末)、小林正樹・家城巳代治~山田洋次あたりの系譜に食い込んでてもおかしくなさそう。
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