ヒノモト

ひとつの歌のヒノモトのレビュー・感想・評価

ひとつの歌(2011年製作の映画)
3.9
1月の観た「春原さんのうた」にて時代の先見性を見せた杉田協士監督作品特集を通い詰めで連日観てきたので、もう上映は終わってしまったのですが、感想を記録として残しておきます。

まずは、2011年の初長編作品「ひとつの歌」から。
まず、本当に苦しかったです。
序盤の体感的に20分くらいは台詞がなく、ポラロイドカメラで写真を撮り続ける主人公と謎の男の追跡があって、終始無言のまま。

ただ、物語の本質はそこにはなく、何気なく撮影した駅の光景と人身事故とその後の展開を映像だけで消化するには、ちょっと時間を要するところがあって、交流を重ねて仲良くなっていく写真店の女性との流れは、元々台詞が少ない上に、説明的な展開すらもなく偶然なのか必然なのかも分からないまま進行していくのも、違和感は残った。

終盤には、その意味がわかる仕掛けにはなっているものの、女性が内面を吐露するまでの時間分の苦しみを観客側も背負っている感覚に襲われて、感情としての緩急は大きいものでした。

杉田協士監督のどの作品においても共通していることなのですが、ロケーションされている場所における環境音と台詞とのバランスに不自然さがなく、場所としての台詞の佇まいが調和がとれていて、そのバランス感が丁度良く感じてしまうことが多々ありました。

同じように何故か必ず登場する写真を撮るという行為にも、失われる前触れのように必然として記録を残しておくというような、来るべき不在への不安のようなものが見え隠れしている感覚があって、特に写真が大きなポイントとなる今作では、その意味合いが強く感じました。
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