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フィオナの海の一人旅のレビュー・感想・評価

フィオナの海(1994年製作の映画)
5.0
ジョン・セイルズ監督作。

アイルランドの北西海岸を舞台に、海にさらわれた幼い弟を探すため、孤島ローン・イニッシュを訪れる少女フィオナの姿を描いたファンタジー。

アイルランドの民間伝承であるアザラシの妖精、セルキーの伝説をモチーフに、少女フィオナの生まれ故郷を辿る旅を描いたノスタルジックなファンタジーで、主演は新人子役のジェニー・コートニー。少し憂いを含んだ表情と、幼いながらも力強い意志を感じさせる妙演を魅せる。

母を亡くし、祖父母のいるアイルランド北西海岸に移り住んだ少女フィオナが、遠くに浮かぶ孤島ローン・イニッシュにおける一族の歴史を聞かされた後、海にさらわれ行方不明となった弟ジェミーを見つけるため島を訪れる...という【少女の一族のルーツを辿るお話】を回想交じりで描いた作品で、セルキー(アザラシの妖精)と一族の知られざる関係性が明らかにされていくさまは幻想的で、神秘的。

寂しげなアイルランド北西海岸の風景の中にある、人と島、海の土着的結びつき。一族は過去に島を離れ、現在は別の場所でひっそり暮らしているが、少女フィオナの訪れをきっかけに一族の真の故郷である島への想いが溢れ出す。自然から離れ、現代的な生き方へと少しずつ移り変わっていく一族の、今一度の自然への回帰。それを、フィオナはセルキーの導きによりもたらしていく。
本作の時代設定が第二次大戦終結から間もない年代というのも象徴的で、徹底的に自然に逆らい破壊し尽くした人間に対する自然からの問いかけとも読み取れる内容であり、セルキーは自然全体を象徴する存在でもある。

自然の尊さ、人と自然の共存、そして最後に訪れる家族の確かな絆を、幻想的なセルキー伝説をエッセンスに綴ったファンタジーの秀作。アイルランドではなくアメリカ製作の作品だが、欧州映画のような落ち着きがあり、ファンタジーだが虚飾を極力排した作風は好感が持てる。
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