ちろる

思秋期のちろるのレビュー・感想・評価

思秋期(2010年製作の映画)
3.9
怒りと悲しみに満ちて破裂しそうな日々に咲いた一輪の花。
細くて柔らかい茎で、風が吹いたらすぐに折れてしまいそうな優しい花。
イギリスの小さな町の片隅に住む誰にも気に止められないような地味に生きる人々の物語。

辛くても苦しくても許してしまうハンナ。このハンナを見て初めて女の持つ「母性」が痛々しいという感覚を持った。
怒りでしかうまく感情を表現できないアルコール依存症のジョセフと、感情を押し殺すハンナ。
2つの不器用な魂が見つめあってまた離れていく。

ジョセフは馬鹿みたいに優しく弱いハンナに亡くなった女房の面影を見たのだろうか?
ふたりの関係は愛とは少し違うのかもしれないけれど、最初ナイフのような眼をしていたジョセフが柔らかい表情になっていく様子を見ていたら、二人の出会いは間違ってなかったと思いたい。
世間はなかなか不器用な二人に冷たいけれど、一輪咲いた小さな花がいつのにか野原に広がっているような安心感が残された優しい優しい物語だった。
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