こたつむり

IN HER SKIN イン・ハー・スキンのこたつむりのレビュー・感想・評価

3.3

♪ 世界は沢山の光に満ちています
  僕はそれを感じる手段を知らなかった

15歳の少女が失踪した事件を扱った物語。
と、表層はそんな感じなので、ちょっと“綺麗め”な映像を用いた普通のサスペンス…だと思いきや、これが結構ヤヴァイ映画でした。

何よりも異色なのが徹底的に公平であること。
つまり、被害者も加害者も同じ筆致で描いているのです。いや、どちらかと言えば、加害者目線かもしれません。

勿論、犯人を擁護しているわけではなく。
単純に“被害者に対して憐憫の情を以って向かい合っていない”だけなのです。これは判官びいき大好きな日本人としては微妙な手触り。思わず肩が下がるのも致し方ない話。

ただねえ。
この挑戦的な姿勢は“創作者としては”間違っていないと思うんですよねえ。

創作物と倫理観は別腹。
というか、むしろ倫理観を積極的に損なう姿勢のほうが、人間の業に対面できるわけで。非難される覚悟があるのなら、積極的にモラルを破っても良いのです。たぶん。

そして、本作からは覚悟を感じました。
犯人を演じた役者さんの本作に懸ける意気込みを。

だから、その特異な心理描写に圧倒されるのです。正直なところ、一般的な感覚で動機を理解することはできません。嫉妬なのか、羨望なのか、そんな低次元の話ではないのか。真実が分かるのは本人(犯人)だけなのでしょう。

やはり、本作は問題作ですね。
巷にあふれるミステリのように理解できる…なんて気持ちで臨むのは大間違い。というか、あまり触れないほうが良いかも。もしも、犯人が理解できたとしたら…あー。お願いですから、他人を傷つける行為だけは慎んでください。よろしくお願いします。

まあ、そんなわけで。
加害者側の心理を“美しく”抽出し、それを現実味溢れる筆致で描いたサスペンス。音楽の使い方、カメラワーク、色彩など、まるで芸術映画のような装いは“究極的な皮肉”だと思いますので、取り扱いには十分ご注意ください。
こたつむり

こたつむり