レオピン

戦争と人間 第一部 運命の序曲のレオピンのレビュー・感想・評価

3.9
私大文系だった自分には日本史、特に近現代が関門でここが受験の命運を分けた。イクヤマイマイ オヤイカサカサと唱えながら歴代内閣を頭に叩き込んだが、通史ってのは暗記じゃ中々歯がたたない。歴史は流れが大事。ってことで受験の前にぜひ見ておきたかったー

新興財閥(コンツェルン)の伍代ファミリーの姿を中心にさまざまな階層の人間を描く。満州伍代とも呼ばれる彼らは中国での戦争を契機に急成長していく。第一部では張作霖爆殺事件から第一次上海事変まで。オールスターキャストでハリウッド流メロドラマの味わい。

冒頭は、満蒙生命線論をぶつ士官学校のシーンから。軍閥の名前なんて苦労して覚えたもんだが、北伐軍の編成とかも無理なく入ってくるし図表付きで出てくる。いよいよ張作霖が邪魔になってきたようだ。南から攻め上がってくる蒋介石率いる国民党軍の第一路軍に済南周囲の町には戒厳令が布かれる。

前半は関東軍は動くのか 山海関まで出るのか 奉勅命令は出るのか。この辺がポイントになってきます。山海関というのは満鉄の外。関東軍というのは満鉄付属地の守備が任務だから越権。伍代公司の伍代喬介(芦田伸介)は河本大佐にしきりに圧力をかける。そしてとうとう張作霖の乗った列車を爆破する。その年末、張学良の奉天派は易幟。東三省に青天白日旗が翻えった。

山東出兵(1次~3次)
1928(昭和3).3.15  三・一五事件(左翼一斉検挙)
1928(昭和3).5.3   済南事件
1928(昭和3).6.4   張作霖爆殺事件
1928(昭和3).12.29 張学良が国民政府へ合流

後半、一年が過ぎて長春の医師の所に傷を負った朝鮮人徐在林が逃げ込む。続いて在満朝鮮人や台湾人たちが引き起こす間島暴動が。この暴動を指令したのは中国共産党だった。拉致される伍代公司の高畠。通訳の白はどうやら共産党員らしい。白の語った物語「双子のリョイスン旅順とダーレン大連の話」が示唆的。 
内地では伍代の電機工場で労働者がストライキを起こす。偶然通りかかった伍代俊介は衝撃を受け、父に泣いて抗議するが、お金持ちは貧乏人の味方には絶対になれませんとお滝に諭される。

1930(昭和5).5.30  間島暴動
1930(昭和5).10.26 霧社事件『セデック・バレ』
1930(昭和5).11.14 浜口首相銃撃事件

高畠の妻素子は共産匪となり果てた徐在林らにさらわれて自殺してしまう。彼らの日本人への恨みは三一独立運動時に朝鮮人が虐殺された万歳事件によるものだった。
1919(大正8).3.1 万歳事件 弾圧がいかに激しかったのか、静止画で見せる。

アカかぶれ標兄弟のあんちゃんとの別れの一夜 これからは誰も信じるなよ 男でも女でも思想でも そいつがどんな人間かよく見てみろ 自分が納得出来ないうちは何もするな

世相はどんどんキナ臭くなって、
1931(昭和6).6.27 中村大尉殺害事件
ここの風雲急を告げる事態を無電で描く手際が斬新

関東軍本部に押し寄せ石原莞爾中佐を取り囲む右翼たち。彼らに向かって、奉天撃滅は2日とかからん ことは電撃一瞬のうちに決すと言い放つ。

1931(昭和6).9.18 柳条湖(溝)事件

領事館に押し寄せる軍人たちを前に、石原裕次郎の外交官は、今日本の運命の決定的瞬間がよぎろうとしていますと説くが聞き入れられない。

張作霖から三年、日本は学習した。それにつけ込む人間もいた。かねてより狙っていた美貌の中国人女性瑞芳を犯した英介に、最初に出会った3年前なら私は許したかもしれません。でも今あなたは私が騒げないと知っててやったのだと詰る。あなたは何を征服したの? 辱める日本人がいても構わない。恥ずかしいのは私じゃない。日本人です

1931(昭和6).11.18 チチハル占領 
1932(昭和7).1.3  錦州占領
1932(昭和7).1.8  桜田門事件(左翼テロ)
1932(昭和7).2.9  血盟団事件(右翼テロ)
1932(昭和7).1.28  第一次上海事変(~3.3)
1932(昭和7).3.1  満州国建国(執政に溥儀)

伍代公司のモデルはおそらく新興財閥の日産か。総帥の鮎川義介は、満州国を仕切った5人としてニキサンスケと称されるうちただ一人の民間人。(五大財閥は日産・日窒・日曹・森・理研 満州伍代と覚えよう!)
父の由介は次男の俊介に、若いうちは一つの考えに捕らわれてはいかんと諭す。貧乏するには理由がある。ストライキには即刻弾圧と資本家の冷徹な姿勢を崩さない。

彼らは満州で何をやっていたのか。阿片の権益を牛耳り、殺人強姦略奪もほしいままにした。日本人を殺させてまで武力衝突を引き起こす。軍部と結託し右翼をけしかけ、匪賊や買弁、親日派から共産党まであらゆる勢力を使いこなしていた。中国は一枚岩ではないという点が超重要。

伍代一族の中国での番頭が弟の喬介(芦田)だが、この男の女性の誘い方が下品過ぎた。女中頭に、久しぶりに男を味わってみんか とか お主ひと汗かかんか とか。そこに絡んでくるのが岸田今日子の川島芳子っぽいスパイ。『この子の七つのお祝いに』でも共演してたな。三國、高橋になるともはやただの獣以下だったが。

市井の人々の差別言動にもドキっとする。大陸浪人や女中が普通に吐くチャンコロ、失業者が屋台で叫ぶ 満州さえぶん取っちまえば何とかなるんだ〜
また上流階層のアカ呼ばわり 伍代家では次男の俊介だけがマトモなようだが彼はどうなっていくのだろうか。

奔放な財閥令嬢の浅丘ルリ子。金沢まで高橋英樹の柘植を追いかけていった帰り、身売りされる娘たちとすれ違う場面。いつか耕平も泣いていた。金持ちには徴兵逃れができるんだ。時代状況に思いを馳せる。

ルリ子さんは新京生まれ新京育ち
ルリ子との不倫に揺れた二谷英明はチョイ役
瑞芳役の栗原小巻が綺麗 おいらはコマキスト

石原裕次郎は半日の撮影でギャラ3000万とか ギャラ泥棒ー
特務機関の井上昭文、板垣参謀の藤岡重慶といった西部警察組も

国も個人も戦争で一発逆転を狙おうとするのがいかに愚かか。戦争が近づくにつれまず弱いものが苦しむ。片やますます肥え太ろうとする連中がいる。格差だけが広がる。そんな当たり前の事実が描かれていた。

映画は教科書にない発見もある。張作霖の爆殺は日本人もろとも吹っ飛ばしたのかーとか。ウナ電とか通匪行為といった言葉とか。今YouTube でも歴史動画は数多いがウソ誤りも多い。当たり前のことを鬼の首をとったかのように喧伝しがちだし、今さら何ゆってんすかということが多すぎる。最初からトリビアルな所やコントラバーシャルな所にいくのではなく歴史はいったん流れで押さえるという事が大事。
長い作品だけど一気に見る必要なんかないぞい。勝手にインターミッション入れてチビチビ見ればいいんぞよ。
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