フライ

荒野の誓いのフライのレビュー・感想・評価

荒野の誓い(2017年製作の映画)
4.5
6ヶ月前に録画し、直後鑑賞も冒頭で心を折られストップしていたが、ようやく全て鑑賞…
アメリカ開拓時代末期、先住民族のインディアン達と戦った軍人の苦悩を描いたストーリーは、最後に大きなため息をついてしまう様な重厚で素晴らしい作品。

アメリカに入植してから続く先住民族であるインディアンと熾烈な戦争を続けてきた入植者達は、その争いを1892年終焉を迎えていた。
軍に入り25年近く残虐の限りを尽くし功績を上げて来たクリスチャン・ベイルが演じるブロッカー大尉は、突然上司である大佐から、以前敵として戦い仲間を殺され、7年間収監されているシャイアン族のウェス・ステューディが演じる首長イエロー・ホークと家族を、大統領令により釈放し、希望するモンタナの居留地迄護送する事を頼まれる。インディアンやイエロー・ホークに強い憎しみを抱くブロッカー大尉は、断るも半強制的に任務として大佐から命令される事に。
護送途中、凶暴なコマンチ族の襲撃により夫や子供3人を殺されたロザムンド・パイクが演じる未亡人のロザリーとの出会いや、コマンチ族の襲撃、部下の死などによりブロッカー大尉の心境に変化が現れるのだが。

クリスチャン・ベイルやロザムンド・パイクの演技は言うまでも無く素晴らしかったが、PTSDを負った兵士を演じたロリー・コクレインと、これ迄悪役としてのイメージの強い年老いたウェス・ステューディの演技と雰囲気が素晴らしく、作品を一層重厚で感動出来るものに感じさせてくれたのが印象的だった。

アメリカの入植者達がおこなった先住民族であるインディアン達への一方的な土地の略奪と大量殺戮と言う深い闇の歴史の一幕を描いたストーリーは、全ての国に共通するだけに感情移入せずに鑑賞する事は出来なかった。何より未だに続く差別やヘイトなど先の見えない憎しみの連鎖が、本作を観ていて余計自分自身を苦しく感じさせている様にも思えた。

ブロッカー大尉や部下達、イエロー・ホークやロザリーなど全ての人達が、心に深い傷を負っていて、決して癒える事は、無いと思えるだけに観ていて本当に苦しかった。しかし癒えないまでも、本当に小さな光が未来に届く様なラストに、見ている自分を癒してくれたのは心に響いたし素敵に思えた。
差別や偏見、憎しみや暴力からは、幸せや、明るい未来はおとずれない事を教えてくれている様にも。

本作から受けるPTSDと思われる兵士達の精神状態は、近代戦争作品では多く描かれているが、西部劇の中でリアルに描かれているたのは衝撃的で、人間の残虐さと、気付かぬ内に心を蝕んで行く嘆きが伝わって来るだけに、見ていてとても悲しいし、この時代故の自分を責める事しか出来ない残酷なシーンに、自分の心まで蝕まれそうな気分に陥ってしまいとても辛かった。

冒頭からかなり衝撃的なシーンで始まる上、終始辛いシーンと心に重くのしかかる様な内容ばかりなので、鑑賞するならそれなりの覚悟で見た方がいいが、学ぶところは大いにある作品なので、見るからには目をそらさずしっかりと見てほしいと思える素晴らしい映画。
フライ

フライ