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荒野の誓いのYYamadaのレビュー・感想・評価

荒野の誓い(2017年製作の映画)
4.0
~脱「勧善懲悪」の「新西部劇」~
【ネオ・ウェスタンのススメ】
 『荒野の誓い』(2017)

◆本作の舞台
 ニューメキシコ州~モンタナ州
◆連関する時代背景
・1868年 / シャイアン族の
オクラホマ強制移住
・1890年 / フロンティアの消滅
  (西部開拓時代の終焉)
・1890年 / ウンデット・ニーの虐殺
  (インディアン戦争の終結)
★1892年 / 本作の舞台

〈見処〉
①勧善懲悪を超えたリアリズム重視、
「新西部劇」の必見作。
・『荒野の誓い』(原題:「Hostiles」=「敵対者」)は、2017年に製作された西部劇フィクション。
・本作の舞台は1892年のニューメキシコ州。インディアン戦争の英雄、ジョー・ブロッカー騎兵大尉(クリスチャン・ベール)は、アメリカ政府の命令により、かつての宿敵で寿命僅かなシャイアン族の首長イエロー・ホークとその家族を部族のルーツであるモンタナ州へ護送する任務に就く。
・道中に好戦的なコマンチ族の殺戮により家族を失ったロザリー・クウェイド(ロザムン ド・パイク)と出会い、彼女もこの一触即発の旅に加わることに。一行は厳しい辺境地を乗り越え、1,000マイルほど移動した頃、遂にお互いの協力なしでは生きていけない状況に陥ってしまう。彼らは敵意と恐怖心を押し殺し、互いの手を取り合い、目的地まで辿り着くことができるのだろうか…。(作品HPより抜粋)
・本作は「西部劇」のテンプレートを通じて「異なる人種が確執を越えて認め合えるようになるのか」と現代社会に対する強いメッセージ性を持った必見作である。

②西部劇とアメリカ史の闇
・1950年代~60年代に隆盛を誇った「西部劇」の基本フォーマットは「野蛮な先住民に対する勧善懲悪」な娯楽作品。
・しかしながら、1960年代の「アメリカ公民権運動」を経た、70年代「ベトナム戦争に対するアメリカの好戦的姿勢」が社会問題化すると、先住民に対する「アメリカの闇」がクローズアップ。1973年のアカデミー賞では、『ゴッドファーザー』で主演男優賞に輝いたマーロン・ブランドが、少数民族の差別に抗議し受賞拒否する事件が発生。以降、イタリア製作の「マカロニウェスタン」を除く西部劇は、差別的ジャンルとして斜陽に差し掛かる。
・1990年の『ダンス・ウィズ・ウルブズ』以降は歴史観に沿った作品が製作されるようになり、差別的な作品は減少。
・2010年代以降は「LGBT」「#MeToo運動」「Black Matter」など社会格差を提起する作品が増えつつあるが、先住民に対しても、本作や『ウインド・リバー』などの「新しい西部劇」によるメッセージ性が強い作品が注目されている。

③結び…本作の見処は?
○: 従来の西部劇に見られる激しいガン・ファイトはそのままに、長い旅路を通じて、ブロッカー大尉や隊のメンバーが抒情
贖罪を持つ過程が丁寧に描かれている。
○: 劇中玉を極力抑え、風の音だけ感じるような静寂なアメリカ原風景を堪能出来る。日本人撮影技師マサノブ・タカヤナギによる風景映像は、ニューメキシコの砂漠地帯からモンタナの森林まで、全てが美しく、北上する旅に同行しているような気にさせられる。
○: ロザムンド・パイク、ジェシー・プレモンス、ベン・フォスター、そしてブレイク直前のティモシー・シャラメ。助演陣が大変豪華な作品。
▲: 内容が重く、静寂な135分。何回か鑑賞中断をしながらでないと集中力が持たない気がする。
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