にしやん

荒野の誓いのにしやんのレビュー・感想・評価

荒野の誓い(2017年製作の映画)
4.2
19世紀末の西部開拓とインディアン戦争が終結したアメリカが舞台のヒューマンドラマや。今時珍しくなった本格的西部劇やな。原題の「hostiles」(敵対者たち)の通りアメリカ開拓時代の終わりのほうの、この国の戦争と差別の歴史の源流とも言える、侵略者としての白人と先住民としてのインディアンを描いた内容や。

冒頭からこの映画のヒロインのロザリー(ロザムント・パイク)一家が襲われるシーンが強烈や。あっという間に彼女以外の家族が殺されてまうねんけど、一人だけ残して他は全滅っちゅう、全員死ぬより悲惨な描写を見せてくるんにはちょっとビビったわ。言うたら、この映画のピークはここやったかもしれんと思たくらいや。この映画は冒頭でいきなり「先住民=恐ろしい敵」という印象を強烈に観客に刷り込んでくんねん。こういうところはプロットの構成として実に巧い。これがあるさかい、その後出てくる主人公の、多くの仲間を殺した先住民に対して強い憎しみを抱く退役間近の軍人ジョー・ブロッカー大尉(クリスチャン・ベイル)の気持ちやとか、彼の同僚たちの鬱屈とした感情がすんなりとわし等にも入ってくるし、これがこの映画の軸になって展開していっきょるわ。その後、彼らがこの映画で経験する様々な出来事によって起きる心境の変化も、観てるわし等があたかも自分事のように感じられるし、結果としてラストにごっついカタルシスを感じさせる仕掛けにもなっとる。

映画の内容やけど、銃撃戦とかはあるものの、伝統的な西部劇というよりも、どっちか言うたら、西部劇のスタイルを取りつつも、主人公や登場人物の葛藤に焦点をあててるヒューマンドラマやわ。  アメリカ人からしたら自分等のアイデンティティに関わる西部開拓時代の終盤の話で、アメリカ人でさえこれは侵略やったんとちゃうんかと薄々感じ始めた頃やな。お互いに恐怖し、憎しみあい、殺しあったという事実を踏まえて、自分等はどないしていかなあかんのか、という謝罪の気持ちと未来への希望が込められてるわ。

それと、戦争というもんについても考えさせられるわ。人は人を殺すようにはできてへんし、人を殺して、何も感じへん人間は、もう人間やないっちゅうこっちゃ。なんぼ慣れてしもたと思ってても、確実に心は蝕まれてるんや。開拓時代に仕事として侵略を行い、アメリカの開拓を推し進めた人等のどこにもやり場のあれへん苦悩をひしひしと感じてしもた。

キャスティングも中々のもんや。アメリカの元副大統領ディック・チェイニーを演じてた『バイス』のクリスチャン・ベイル。これほんまに同じ人なん?ってビビッてしもたわ。開拓時代威厳のある中年アメリカ軍大尉をしっかりと演じてたわ。ヒロインやけど、「ゴーン・ガール」、最近では「プライべート・ウォー」「エンテベ空港の7日間」のロザムント・パイクは、繊細かつ意思の強い女性を巧いこと演じとる。長い戦闘生活でPTSDに苛まれる主人公ブロッカー大尉の従卒役のロリー・コクレインも良かったわ。彼の役の存在自体が戦争の無意味さを表現しとったな。あと、今大人気の若手イケメン俳優のティモシー・シャラメも出とうしな。

骨のある内容並びにストーリーの、よう出来た作品やと思うわ。それに、映像の美しさ、映画としてのワンシーンワンシーンの作りの巧さも全体としても際立ってるしな。シーンのそれぞれがちゃんと映画になってるって感じや。ラストシーンもいかにも映画的で、思わずニヤッとしてしもたわ。こういう映画って最近ありそうでないで。ほんまに映画らしい映画やわ。分断の今この時代にこそみんな是非観てほしいもんやな。
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