わんぱく長助

バッファロー’66のわんぱく長助のネタバレレビュー・内容・結末

バッファロー’66(1998年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

端的に言えば、ビリー・ブラウンという出来損ないのベジータが、レイラという陰鬱なブルマと出会い、魅かれていく物語。ただし、ありふれたラブストーリーではない。アウトレイジよろしく、サブタイトルに全員狂人とあってもおかしくない作品。

先ず何よりも、ビリー、ビリー父、ビリー母、レイラの四人が狭苦しい卓を囲んで話すシーンの、如何ともしがたい退屈な空気が好きだ。家族全員が半狂人なのに、この連中なら下手に爆発することはないだろうと、焦燥感に駆られることなく安心して見続けられる。

物語中盤、デニーズで本物のウェンディと遭遇する件から始まり、モーテルでの入浴までの流れで、ビリーとレイラの力関係が明確に逆転したように思える。このあたりの心理描写が高く評価されているようで、それについては概ね同感。

レイラはイカれているが、イイ女だと思う。「ウェンディは恋人じゃなかったのね」「いや恋人だ」という二人のやり取りのあとで、「彼女の他に恋人は?」と訊ねてやる彼女の純真な優しさに気づけてよかった。これを煽りや皮肉と捉えてしまう奴は、きっと人生に疲れているか、根が冷たくてよそよそしい人間だ。組合でも作ればいい。

個人的に、ベッドに寝そべる二人を上から撮る演出に注目して欲しい。ビリーの身体の向きが本当に良い味を出しているなと。ロンリーウルフ気質な男は、きっとこのビリーに感情移入してしまうだろうと。監督兼主演のヴィンセント・ギャロはやっぱり一流なんだと。

憎きスコットと対峙してから急にコミカルな演出になったかと思えば、直ぐにそういうことかと納得させられた。アメリカ版の緊張と緩和だろうか。上手く出来ている。

ただ、もう少し展開が欲しかったという意見もあって然るべき。全体的に退屈なのは事実である。その退屈さを楽しめるかどうかで、この映画の見え方が変わることだろう。