ジェイコブ

千年女優のジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

千年女優(2001年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

映像制作会社を経営する立花は、30 年前突然表舞台から姿を消した大女優藤原千代子の歴史をまとめたドキュメンタリーを作るため、カメラマンの井田と共に田舎で隠遁生活を送る彼女のもとを訪れる。立花は老いてなお、美しさと儚さを兼ね備えた佇まいの千代子に感激しつつ、彼女に「鍵」を渡す。千代子はそれを「大切なものを開ける鍵」だと語り、自身の人生を演じてきた作品の数々と共に振り返っていく……。
パプリカで知られる今敏監督作品。パーフェクトブルーで名を上げた監督が世界的に知られるきっかけとなった作品でもあり、千と千尋の神隠しと並び高い評価を得ている。
前作パーフェクトブルーで描かれたストーカーによる歪んた愛がもたらしたサイコサスペンスとは打って変わって、本作は一途に一人の男性を想い続け、最期は幸せな末路を迎えた女性の姿を描いた正に究極の純愛である。
本作の主人公藤原千代子のモデルは、東京物語などで知られる名女優の原節子。永遠の処女とも言われた彼女は、黒澤明や小津安二郎など、名監督からも高い評価を受けており、晩年は千代子と同様隠遁生活を送っていた(原節子自身はタバコとビールを好んだという) 北野武がバイク事故で入院した際、彼女からもらった見舞いの数珠に感激し、今でも大切にしているエピソードも有名だ。
本作は虚構と現実が入り混じっただまし絵のような映画とされている。しかし、ラストの千代子の台詞「だってあたし、あの人を追いかけているあたしが好きなんだもの」から紐解くと、この映画は千代子の極めて純粋な想いから成り立つのではないかと思う。人は年を取れば取る程に、自分が体験した綺麗な思い出を大事にして生きていくようになるもので、それが事実と異なっていたとしても、都合よく解釈してしまう。しかし千代子自身は別に真実を求めているわけではなく、名前の知らない鍵の君との短い間だったが幸せな時間を美化し、生死もわからぬ彼の行方を追う一途な自分の姿に酔いしれたいだけなのだ。恋をする自分が好きになってしまい、恋愛関係が長続きしない人にもありがちな話だが、彼女はそうしている内に老年期を迎えた。そう考えると、本作においてどこから現実で、どこから虚構なのかは重要ではないとも思える。
老いた自らの姿を愛した人に見せたくないと語る、乙女心を持ち続けた一人の大女優の嘘と現実。千代子の想いは、睡蓮の花言葉のように純真で、時間や空間すらも超越していくのかもしれない。