ルサチマ

色情団地妻 ダブル失神/わ・れ・め/笑い虫のルサチマのレビュー・感想・評価

5.0
2021年7月18日

再見。これほどまでに息苦しく切実な愛の活劇を知らない。堀映画の人物たちは決して相手の台詞に影響受けることなく、徹底した個の音声を手に入れているが、今作はその音声への意識が最も顕在化した映画だと思う。『草叢』の頃から続く室内空間に響く子供たちの声については、よりその凶暴性が高められていることも明らかだ。

画面に目を向けてみると玄関に吊るされたグローブは決して元ボクサーの男が手に取ることはなく、かつての功績を宙吊りに生きる現状を痛烈に物語り、この映画が夢に挫折し生活が破綻しかけたあるカップルのドラマであることを的確に示す。

また、冒頭から映されるベランダの扉の開閉が、狭い室内に爽やかな風を吹き込むものだとするならば、来るべき決裂を物語るイメージとして、玄関の扉の存在がある。これはデビュー作である『弁当屋の人妻』から連なる堀禎一の空間的主題であり、今作はその室内空間に姿見なる新たなモチーフが導入される。この姿見は虚としての別空間を視覚化させ、前半部において鏡に反射したセックスする男女は、体位を変えることで男女の関係の中における非対称性を示す。それに対し、後半の姿見が示す男女間の関係とは、男女は鏡の存在に目を止めることなく男が女に覆い被さるだけだ。
鏡のフレームに区切られた別空間が示すのは決して男が家庭に戻ることを示唆する生易しいものではなく、男が女に縋ることでつかの間の癒しを求める残酷な生き様の反射のようなものかもしれない。

遅くなってしまったが、彼の訃報を聞いて以降、繰り返し見つめてきた堀禎一の作品群について、彼の素晴らしいフィルモグラフィーを忘れないためにも、近々彼の作品たちについて執筆してみたい。


2回目 2020年4月14日

全カットがあまりに痛々しく、外に出ても一切開放感のない声の響きに強烈なパンチを喰らった。風呂場でカレー食って、そのままフェラしてもらっても慰むことがない重圧をあの狭い日本のアパートを完璧なフレームサイズで切り取るのが凄い。ずっと泣きそうだったのに、簡単に泣くことさえ許さない画面の強度に打ちのめされる。


1回目 2018年11月23日

映画において興醒めしやすい脆さを孕む格闘技の試合をいかに写すか。
堀禎一は安易に客の背中越しのリングを写す事は勿論しない。リング上で闘うレスラーを写す時には原則としてリング上の世界だけを映し出す。
そして試合を観てる観客の顔を写す場合は観客だけにカメラを向け、リングをあからさまに写すことはしない。
更に凄いと思ったのは観客の顔を写す時に、主要人物以外のエキストラの観客の顔は一切照明を当てずに見せてしまう。
リング上の対決とは別にリングを見ている一部の観客同士の精神のぶつかり合いのフィールドを限られた照明と俳優たちの視線によって生み出すなんてことを堂々とやってのけたことに堀禎一の監督としての知性の高さを思い知った。

他にもマメ山田と子供を同じショットに入れ込む低いカメラ位置と、亀裂の入った夫婦仲の上下関係や濡れ場での上下の動きを捉えるカメラ位置なども的確に選択される。本当に見事としか言いようがない。
ルサチマ

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