ひろ

コクリコ坂からのひろのレビュー・感想・評価

コクリコ坂から(2011年製作の映画)
3.7
企画・脚本を宮崎駿、監督を宮崎吾朗が務めて製作されたスタジオジブリによる2011年の長編アニメ映画

最近のジブリは現実路線だ。この作品はジブリ作品に必ずあるファンタジー要素がない。1963年という時代のノスタルジーを感じさせる作品だ。しかし、その時代に生まれ育っていない人には、ノスタルジーも感じさせつつファンタジーなのだ。知らない時代の若者たちの日常。それだけで、たくさんの刺激を受ける。

1980年に「なかよし」で連載されヒットしなかった少女漫画を原作にするというのは、宮崎駿のすごいところ。何十年も前から計画していた企画を2011年という時期に映画化したのにも、宮崎駿の計算が働いている。少女漫画が原作ということで、「耳をすませば」と似た雰囲気を持った作品だが、内容はより深いものになっている。

「ゲド戦記」に続いて監督2作目となった宮崎吾朗監督。偉大な父親と比べられ、相当なプレッシャーの中で監督をしたと思われるが、父親とは違った自分の在り方を見つけた作品だと思う。ジブリをやたら語る人は、ジブリはこうでなくてはとうるさいが、そういう人たちが作品の可能性を狭めていることに気づいてほしい。宮崎駿は宮崎駿、宮崎吾朗は宮崎吾朗なのだから。

この作品には現代の人たちが失ったものがたくさん描かれている。スイッチひとつで何でもできる便利な時代にはない生活感。人々が生きている日常に、大切なものがあると言わんばかりに、ジブリ作品はファンタジーでさえ、必ず生活感をしっかり描いてきた。討論する若者たちの躍動感。エネルギーに満ち溢れた若者たちにハッとさせられる。

女性ばかりの海が暮らすコクリコ荘と男だらけのカルチェラタンの対比も面白い。どちらも明治に建てられた由緒ある建物だが、大切に使われてきたコクリコ荘と自由すぎるカルチェラタンはあまりに違っている。特に、カルチェラタンの雰囲気はジブリ作品らしいファンタジーすら感じさせてくれる。

ジブリと言ったら声優を豪華俳優が務めるのも定番。海の声を長澤まさみ。最初からあまりうまくないなって思ったけど、アニメって観ていればなれてくるもの。俳優って声優下手な人多くて、“読んでる感”“演じてる感”を感じてしまう。俊の声を担当した岡田准一は意外とうまかった。他のベテラン俳優陣は、声優経験もあるし、特に問題なく演じていたと思う。

討論会での俊の台詞や海と母との会話、せつない告白シーンなど、見所がたくさんある。昭和の横浜という設定や出生の秘密、恋愛といったベタになりそうな物語をここまで意味を持たせて、感動的に描いたのは素晴らしいと思う。ファンタジーはないが、この作品はジブリのファンタジーで育った大人たちに向けられた作品なんだと思う。
ひろ

ひろ