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ジェニファー8(エイト)のnetfilmsのレビュー・感想・評価

ジェニファー8(エイト)(1992年製作の映画)
3.8
 『羊たちの沈黙』から『ユージュアル・サスペクツ』へと連なる90年代のアメリカにおける猟奇殺人映画ブームの中生まれた作品ながら、今作はあまり陽の目を見ない。刑事でありながら、組織に馴染めず、常に疎ましく思われている主人公が連続殺人犯を追う物語で典型的な刑事物とは少し趣を異にする。シンプルながら後半二転三転するストーリー展開が脚本家出身のロビンソンらしい。作品全体の乾いたトーンが非常に素晴らしい。冒頭からラストに至るまで、太陽光や晴れのシーンがほとんどなく、フレーム上には常に大量の雨が降る。暗闇の中で突如光るライトなんて迫力十分で、あえて人間の視覚と聴覚を鈍らせることで、恐怖を演出した上質なサスペンスとも言える。今作の矜持はその的確な配役だろう。アンディ・ガルシア扮する主人公を筆頭に、盲目のチェリストを演じたユマ・サーマンの薄幸ぶりが非常に良く効いている。

 アンディ・ガルシアのたった一人の理解者として登場するランス・ヘンリクセンもアクセントとしてはこれ以上ないくらいの活躍だし、ランス・ヘンリクセンと入れ替わるように後半突如登場するジョン・マルコヴィッチのねちっこい嫌らしさには心底嫌な気持ちにさせられた。大抵のサスペンスやミステリーは、大体中盤くらいで犯人がわかってしまうが、今作においては、最後の最後までまったく犯人がわからない。ラストはやや唐突な終わり方にも見えたが、これはこれで悪くない。普通はヒロインの危機一髪を救うか、弔いの一発でトドメを刺すだろうが、今作はそれよりもラジカルな方法論で犯人に死の鉄槌が下る。そのくらい大胆で野心的なアイデアを持って挑んだロビンソンの手腕を買う。90年代を振り返った時に、優れたアメリカ産サスペンスの担い手として真っ先に名前が挙がるのはフィンチャーやシンガーやハンソンやコーエン兄弟だが、ブルース・ロビンソンの名前も忘れるわけにはいかない。
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