三隅炎雄

荒野の処刑の三隅炎雄のレビュー・感想・評価

荒野の処刑(1975年製作の映画)
4.1
市民挙げての悪人粛清大虐殺を免れた四人―インチキ賭博師・身重の娼婦・アル中ダメ男・狂った墓掘り人が、疑似家族となって荒野をさすらいの旅に出る。
フルチ流聖家族の前に立ち現れる砂漠の悪霊とも言うべき男がヒッピー風のトーマス・ミリアン、ドラッグの力で彼らを暴力とセックスの世界に引きずり込もうとする。ここはマンソン・ファミリーの悪夢を想わせ、主人公とこの砂漠のサタンとの闘いが話の軸となる。

ニューシネマ調のやわらかな画調に気を許していると、突如カニバリズムのグロテスクが悪意の弾丸となって飛び出してくるから大変だ。かと思うと、女嫌いの男たちだけが身を寄せ合って暮らす奇妙な集落での雪景色の聖画は、心に染み入る美しさだ。突如あからさまにジョン・フォードの『三人の名付け親』になるんだから混乱する。なんという振幅の激しさ。
善に魅入られ悪に魅入られ、フルチの頭蓋骨を叩き割って中を見せたかのような奇怪な荒野がスクリーンいっぱいに広がる。

聖と俗、現実と幻想がないまぜの、これぞ異形のマカロニ西部劇。まこと特異な才能と改めて思い知らされる。
三隅炎雄

三隅炎雄