三樹夫

君よ憤怒の河を渉れの三樹夫のネタバレレビュー・内容・結末

君よ憤怒の河を渉れ(1976年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

角川映画かと思ったら松竹映画という映画。主演は東映の高倉健でプロデューサーは大映の永田ラッパという、色々ごちゃまぜの闇鍋感があふれる。
冒頭、強姦強盗の証言を受け逮捕される主人公の検事。なぜあの夫婦は嘘の証言をしたのか。しかも自宅からは偽りの証拠が発見された。これには巨大な陰謀が潜んでいるのかという、つかみは抜群の始まり方をし、濡れ衣を着せられた主人公の東京→石川→北海道→東京と移動するの大スペクタクルのアクション巨編なのだが、北海道にきてからは展開がのんびりしている。VS熊、素人飛行のセスナで東京乗り込みと威勢はいいが熊はもちろん着ぐるみなので細かいカット割りで熊の全体を見せないように、着ぐるみなのをごまかすことに尽力せざるを得ないし、素人飛行のセスナは自衛隊がスクランブル発進や恐山に激突寸前など、アクションを起こそうとしているがほとんど画面に映るのは操縦桿を握った高倉健とセスナパートは長く感じてしまう。そもそも北海道パートは中野良子とのラブが育まれる過程もあるので話が中々前に進まない。濡れ場で薪の火が挿入される超絶紋切り型描写はさすがに令和に見るのはきつい。高倉健と中野良子でおっさんと女の子の恋愛関係っておっさんの願望パンパン感があって嫌だわと思っていたら、主人公は36歳設定で驚いた。どう考えても40歳以上だと思っていた。36歳でもおっさんなのには変わりないが、今の36歳と当時の36歳は細胞レベルで違いすぎる。
東京に戻ってからは新宿を馬の大群で疾走するというボルテージ爆上がりのシーンがあったりするが、精神病院潜入パートなどやはりのんびりしている。新宿での馬の撮影は長いことゲリラ撮影と言われていたが許可取ってたのね。ただし冒頭だったり馬疾走シーンだったりの群衆の中を役者が移動するときの群衆の反応を見るに絶対エキストラではなさそうだし、何か知らんけど撮影が始まったと、通行人にとってはゲリラ撮影のようなものか。
話も終盤になり、大物右翼政治家が悪徳製薬会社とつるみ人間をロボットにする精神薬を使って政府にたてつく極左と左翼をロボットにして操ってやろうとしていたという巨大な腐敗と陰謀が明らかになる。この映画は巨悪に対するケリのつけかたがマジで最高で、リボルバーの弾全弾ぶち込んだ後に原田芳雄の「こんな野郎は100発撃ち込んだって正当防衛だ」の台詞はシビれる。
原田芳雄の西村晃へ対する飛び降り強制や、法律で裁いてはいけない罪や法律では裁けない悪がある等、とにかく巨悪は死ねと声高々に言い切る反権映画を、完全に権力者側の徳間康快が永田ラッパが製作協力や製作で関わっているおおらかあるいはてきとうな時代だ。

陰謀に巻き込まれた主人公が巨悪をうつという体温の上昇する映画のはずで、実際陰謀パートと巨悪をうつパートのボルテージは高かったが全体的に間延びした映画の印象を受ける。巨悪側が中々主人公に関わってこず、作中熊と戦ったりセスナの操縦だったりで主人公が巨悪とは直接に関係ないところでもがいているのが一因だろう。後は異常に自己主張の強いBGM。お散歩している時に流れるようなのんびりしたBGMがどんな場面でも多用され、違和感と不思議感と混乱を覚える、そういう類の効果を与える魔法攻撃を受けているみたいだ。
原田芳雄がすんごい毛むくじゃら。中野良子って角川映画に出てた時の原田知世に似てる。演技が安定してたし安心して観れた。
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