シズヲ

湖のランスロのシズヲのレビュー・感想・評価

湖のランスロ(1974年製作の映画)
3.7
リアリズムの果ての騎士道物語。聖杯探索に失敗した円卓の騎士が、ランスロと王妃グニエーヴルの不義の恋をきっかけに破綻へと進んでいく様を描く。所謂アーサー王伝説を題材とした作品ながら、作劇的演出を嫌うブレッソン監督の手腕によって虚飾性が徹底的に排除されている。華やかさの欠片もない剣戟によって騎士達が斬首され、撲殺され、死骸が野晒しにされていく姿を映し出したオープニングの冷徹さで度肝を抜かれる。

終始に渡って淡々と素っ気なく物語は進み、その過程で説明的な描写も殆ど挟まれない。騎士達の不和と不義の恋がただ只管に“場面”と“演技”で示され、それ以上のことは決して語らない。演出と編集の冷淡なまでの潔さ、そして無機質な印象すら感じさせる語り口。何処か閉塞的なロケーションと抑制されたカメラワーク、その狭間で描かれる馬などの鮮烈なカットも印象的。淡々とした演出と共に挟まれる音響の数々もある種独特のアクセントを生み出している。甲冑の金属音、馬の呻き声、バグパイプの音色など、いずれも印象的で耳に残る。

虚構的な描写を削ぎ落とし、異様なまで淡々と語られるアーサー王伝説。ドライな語り口の中で描かれる騎士道の転落。静謐でありながら叙情的でもなく、寧ろ一種の殺伐性すら感じられる。延々とリアリズム的でありながら、その無機的な作風ゆえに最早非現実性へと片足を突っ込んでる。あまりの素っ気無さや抑揚の薄さに面食らうし、流石に根本的な退屈さも否めないけど、それでもなお本作の異質さには慄かされる。モルドレッドの謀反が起こるラストシーンは、虚無的で残酷な“死”の情景と鳥が舞う空の風景のコントラストが鮮烈。
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