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ロバート・デ・ニーロの ブルーマンハッタン/BLUE MANHATTAN II・黄昏のニューヨークのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 グリニッチビレッジを舞台に、3人の青年の姿を通して、ケネディ暗殺、ベトナム戦争、徴兵に揺れる60年代アメリカを見つめた力作。あのブライアン・デ・パルマの記念すべき商業映画処女作にして、後に『ゴッドファーザー』シリーズでアメリカきっての名優にのし上がった若き日のロバート・デ・ニーロの出発点としても知られる作品である。『アメリカン・スナイパー』が出来るだけリベラルに戦争を見つめた映画だったとすれば、今作は全編に渡って漂うその重苦しい反戦テイストが見所であり、旨味になっている。ベトナム戦争を描いた作品とパナマ侵攻や湾岸戦争を描いた近年の戦争映画が、ある種まったく別のベクトルにあるとするのは、徴兵制の有無である。明らかに当時世界の文化を席巻したジョンとポールに似た若者たちが徴兵により、ベトナムの戦場へと駆り出されていく。彼らは志願して戦地に赴いたのではなく、国の意向によって出兵したに過ぎない。冒頭のジョンソン大統領の演説は、演説そのものをモノクロ映像で見せるのではなく、テレビのブラウン管を通してフレーム内フレームで提示される。まるでこの映画は全てがシニカルな作りもののような、現実味のないちぐはぐな倒錯性を帯びている。

 徴兵制を免れるためにあらゆる策を練る3人の滑稽な姿を、一切のセットを用いずロケーション撮影した前半部分は、はっきりと同時代にフランスで起こったヌーヴェルヴァーグを意識している。SEXの時にケネディ大統領の暗殺の様子になぞらえて、ある種の倒錯した世界の中にしか性的興奮を感じられない若者の侘しさ。覗き見癖があり、8mmカメラの前で女が裸体になることに性的興奮を感じる若者。コンピュータでのバーチャルなやりとりにしか興味が持てない若者の三者三様の悲哀は、およそ50年前の映画とは思えない先見の明に満ち溢れ、70年代の闇に身を落とす若者たちの行き場のない病理を幾分誇張し伝える。もうこの処女作からデ・パルマの覗き見根性は徹底していると言ってよく、中盤の万引き犯の女が服を1枚ずつ脱いでいって最後は下着姿になる様子を8mmカメラで撮った映像の変態性は、68年には相当ショッキングだったに違いない。ケネディ暗殺の真相を知ろうと路上で話を聞くロイドの脇で、手持ち無沙汰なジョンとポールが走り回るシーンはおそらく即興撮影されたものだろう。警備員が彼らに声をかけようとする様子が収められているのだが、最後に有り得ない部分でズームになる。突拍子もないショットの連なりに思わず笑ってしまう。
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