塚本

ショーン・オブ・ザ・デッドの塚本のレビュー・感想・評価

3.8
エドガー・ライト、サイモン・ペッグ、ニック・フロストらの作るものは、基本は各々特定のジャンル映画のパロディなんですが、ただ元の映画を茶化すなんてことは絶対にせず、そこには彼らが若かりし頃観た映画への熱い熱いリスペクトがあるのです。
パロディ要素は彼らが練りに練った、ツイスト効きまくりの脚本に”必然的”にまたは”有機的”に奉仕する仕掛けとして機能しており物語としてのオリジナリティ(言うまでもなく英国独特のブラック・テイストの隠し味が随所に見られます)が横溢しています。

例えば「ショーン・オブ・ザ・デッド」。
これは”ゾンビもの”のパロディ・コメディです。

そもそもゾンビとはジョージ・A・ロメロが1968年に作った「ナイト・オブ・リビング・デッド」に登場した”生ける屍”が初御目見えで、次作の「ゾンビ」でホラーシーンに於いてスターの座を確たるものにします。そしてゾンビはその後、独り歩きしだし、様々なゾンビ映画が作られていきます。
しかしそもそもロメロのゾンビ映画はゾンビというキャラにのみ依存した”恐怖映画”とは厳密には異なるのです。
ゾンビはその時代、その時代に抱えている世相の写し絵としての象徴として描かれていったのですね。(ちなみに最近作の「ランド・オブ・デッド」の世界観はイラクの戦場ですね。)
故に数多あるゾンビ映画とは志が全く異なるのです。

…エドガー・ライトたちの作った「ショーン・オブ・ザ・デッド」はゾンビというキャラクターに特化した、パロディではありません。
「現代の世相を風刺した」ロメロの思想を継承し、ロメロへの大いなるオマージュから作られた、まさに本歌取りとも言える傑作なのです(ロメロは彼らの作ったこの映画を自作を継承する唯一のものだ、と言ってます)。

そう、彼らには映画に対する愛があるのですね。
塚本

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