エイデン

キャタピラーのエイデンのレビュー・感想・評価

キャタピラー(2010年製作の映画)
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1944年
日中戦争へ出兵していた久蔵が兵士に連れられ4年ぶりに故郷の村へと帰還する
それを迎えた妻のシゲ子だったが、彼女は久蔵の変わり果てた姿に愕然としてしまう
戦地で爆発に巻き込まれた久蔵は、両手両脚を無くしたばかりか、鼓膜は破れ喉の怪我で声まで失い、頭にも酷い火傷の痕が残る無惨な姿となっていたのだ
シゲ子は現実を受け止めきれず、久蔵の首に手を掛け心中を試みるも、読唇で彼の言いたいことがわかると判明し思いとどまるのだった
後日 一兵卒から少尉にまで昇進し、多くの勲章、恩給を伴って奇跡の帰還を果たした久蔵
は、新聞でも“生ける軍神”として話題となり、村では盛大に祝いの場が設けられる
同じく久蔵の姿に驚きを隠せない村人達は、夫の世話をすることも国のためだとシゲ子に言い聞かせ、その役目を彼女に押し付けるのだった
引くことのできないシゲ子も、渋々 久蔵の世話を続けると決意の言葉を述べる
久蔵は残された感覚を使って、以前のような食事や性行為をシゲ子に要求
それは次第にシゲ子の負担となりのし掛かっていく
かつては暴力的だった久蔵も、今や飯を食い寝るだけの日々
そうした久蔵の世話を献身的に続けていくうち、やがてシゲ子の心境にも変化が訪れる



反戦を大きなテーマとした戦争ドラマ映画

元は江戸川乱歩の『芋虫』の映画化を目指したもののオトナの事情で叶わず、同作や『ジョニーは戦場へ行った』をモチーフにしたオリジナル作として製作された作品
そのため特に『芋虫』から引っ張ってきた要素が多分に垣間見える

『ジョニーは戦場へ行った』は悲劇的な主人公の目線を通して反戦のメッセージ性が強い作品であるけど、『芋虫』や本作はそれに加えて人間の残虐性に焦点を当てている
かつては家父として、戦場では兵士として力を振るってきた久蔵も、全くの無力な存在と化し、その力に平伏してきたシゲ子が力を振るっていく
力を持てば相手をコントロールし、生殺与奪さえ握れてしまう
それに気付いた時、自身の中に眠る獣性が目覚めていく
おぞましい人の本性が赤裸々に描かれるのはかなりエグいけど、それによって久蔵の心にも変化が生まれていく対比とかも上手くて個人的には好き

まあおおよそ救いようの無い話ではあるけど、そういう人間性の変化というものも含めてよくできた戦争映画に仕上がってる
繊細かつ体当たりでシゲ子を演じた寺島しのぶにもただただ拍手
振り切ったダークさの中に確かな質の高さを感じられる良作なので観ましょう
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