シズヲ

ミラノカリブロ9のシズヲのレビュー・感想・評価

ミラノカリブロ9(1972年製作の映画)
3.0
すり替えられたマフィアの大金を巡る“仁義なき戦い”。タランティーノの好きな作品らしいけど、そもそもタランティーノは引き出しが多すぎて凄い。70年代イタリア製映画ということもあり何処となくマカロニ・ウエスタンの匂いがする、というか役者陣は実際に「あっマカロニで見たことある」ってなる顔触れなので妙な味わいがある。とにかく濃い顔が並んでいるけど、主役であるガストーネ・モスキンの寡黙な雰囲気は独特の存在感があって良い。途中までめちゃめちゃ憎たらしいのに最後は憎めない男になるマリオ・アドルフもやたら好き。

ハードボイルドな音楽(エレキギターへの変調が好き)やオープニングのインパクトは中々好きだけど、全体的には正直だいぶタルい。途中までの展開はラストまでの引きに過ぎないんだろうけど、それにしたって“盗まれた大金の行方”や“犯人と疑われた主人公の奔走”などの要素が話の推進力として活かされていないのは辛い。ミラノの町並みをバックにした合間のシークエンスはけっこう渋いのに、本筋の駆け引きになるとなんか緩慢で退屈になってしまう。まあそれでも終盤になるにつれて話が動き出すし、怒涛の銃撃戦からのラスト十数分はスリリングで面白い。どんでん返しめいたオチも(強引ではあるけど)遣る瀬無い無情感に溢れている。

富裕層への怒りを顕にする左翼的警察官による演説も流石にあざとさは否めないものの、ある種の時代性めいたものは感じられる。そして「今はもう真の意味でのマフィアはいない」という台詞や狡猾で冷徹なギャング達の姿などにも象徴されるけど、あの警官の持論は“社会の腐敗による産物”としてのマフィアを強調する為にあるのかもしれない。まあそれなら仁義を失ったマフィア達の側面をもう少し掘り下げてほしかった感はあるけどね。
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