Shintaro

最後の人のShintaroのレビュー・感想・評価

最後の人(1924年製作の映画)
4.0

素晴らしい傑作。
ムルナウ監督は『ノスフェラトゥ』では あれだけ恐ろしいヴィジュアルを描いておいて、今作の冒頭は本当に可愛い。

有名ホテル(アトランティカ?)でドアマンとポーターをしている立派なヒゲを蓄えた老人がいる。
彼は実に誇らしげに仕事に勤しみ、地元ではその綺麗な制服姿から、”将軍様”などとみんなの視線の的。近々娘の結婚も決まり、裕福とは言わずとも文句のない生活をしている。
だが、なにぶん老体にはキツい荷物運び。その様子を見逃さなかったホテルの支配人。
ある日、老人が出勤するとホテルの玄関にはガタイのいいドアマンが…。
支配人から便所掃除への配置換えの通知が渡される老人。
意気消沈した老人から半ば強引に制服を脱がし、その中からは貧相な洋服姿が露わになる。
ある夜、老人はこっそりその制服をクローゼットから盗むのであった…。

タラタラあらすじ書きましたが、本当にこれだけの話です。
これだけですが、その意味するところは心底明確でいて深い。
昔のドイツ映画はなんでこんな人間模様が描けるのか不思議です。

今使うとあからさまにしかならない表現主義的な演出も、白黒のミニマルな世界の中では非常に効果的です。
この映画、制服から暗示される権威主義を象徴している映画だと言われています。
”自信”の喪失は今も昔も普遍的なテーマです。僕らが生きる世界においてもそれは共通して存在します。
故に、この老人を通し自分を見てしまい涙がでます。

さすがムルナウ、可愛いとは言いましたが暗闇を描く恐怖も忘れていませんでした。
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