半兵衛

遊侠列伝の半兵衛のレビュー・感想・評価

遊侠列伝(1970年製作の映画)
3.5
妻と死に別れたテキヤが残られた子供を育て上げる物語だけど、『網走番外地』の頃に戻ったような陽気で乱暴な健さんなのでベタで嘘臭い人情ドラマに陥ることなく陽気でカラッとしたドラマに仕上がっているのが嬉しい。宴会のときに「私のラバさん~」と歌うときの明るくやけっぱちな歌声はブラックレインのカラオケシーンを思い出して微笑ましくなる。高倉健の仲間に由利徹などコメディアンがいるのも陽性をプラスしている。

そして藤純子と浜木綿子という空前絶後の日本美人が二大ヒロインとして映画に華を咲かせているのがこの映画に独特の個性をつけている。藤純子は途中で退場するも儚い美しさ(髪をおろした姿の艶っぽさ!)で観客を魅了し、浜木綿子は艶やかで勝ち気で心やさしい芸者を見事に演じている。特に浜の主役と五分五分の立場にいるヒロイン像は東映任侠映画では珍しく(似たような役は藤が演じているが)、お互い好意を持っていながら健さんと口喧嘩するシーンは浜の伝法な口調も相まって寅さんとリリーみたいで素晴らしい。何故かは不明だが浜の任侠映画の出演がこれっきりなのが残念。

あと主人公の子供役に真田広之(当時は下沢広之)、アラカン親分の小さい娘役に藤山直美(当時は藤山直子)が出演しているが二人とも芝居が達者すぎてビビる。

ただ小沢茂弘監督は人情ドラマで必要な登場人物の感情の流れやあやをすっ飛ばして勢い優先で映画を作っている感じになっており、キャラや物語に深みを感じることなく単なる人情ドラマで終わってしまっているのが残念。そしてそれなりに出来のいい人情ものだったのに最後いきなり任侠ドラマの流れになって殴り込みという展開が唐突だったり、映画を本来盛り上げるはずの浜と高倉健のドラマがさして描かれないところもマイナス。それでもカッコいい全盛期の健さんを見れたので後味は満足だけどね。
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