さく

救命艇のさくのレビュー・感想・評価

救命艇(1944年製作の映画)
3.8
約10年ぶりの再鑑賞。「良きアメリカ人/クリスチャン」の幻想性が、救命艇という閉鎖された極限状況の中で、崩れ落ちて行く。「隣人を愛する」ことや、思慮を持って行動することは、恵まれた環境で余裕がある人達に許された特権だということを感じた。

登場人物で唯一のアフリカ系アメリカ人であるジョーの描かれ方が、「(残虐なナチに対して)高尚なアメリカ人」が”装い”に過ぎないことの皮肉になっているのは面白かった。意図的かと思うくらいジョーや周囲の言動が極端だったが、同年代の作品におけるアフリカ系アメリカ人の描かれ方を考えると、恐らく”当時の普通”だったんだろうな。

ウィリーも最後のドイツ人青年も描かれ方がプロパガンダ臭しまくりで酷かった。まあ1944年だしな…。

約10年前に見た時はヒッチコック作品のベストと思ったけど、今回は上記の描かれ方が気になってしまったためそこまでハマれず。もちろん、名作は名作なんだが。昔の作品を100%楽しめる時は来るのだろうか。多分、現実世界がマシになれば「昔のこと」と割り切って楽しめるんだろう。死ぬまでそんな世の中にはならない気がする。
さく

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