砂場

救命艇の砂場のレビュー・感想・評価

救命艇(1944年製作の映画)
4.0
プロパガンダ映画に見えてヒッチコックの仕掛けた巧妙なダブルバインドなのか!?
コニーのキャラは最高すぎる、これだけで合格点!


ーーーあらすじーーー
■沈没する船、漂流物からイギリス船のようだ
救命艇に乗る一人の女性、エレガントにミンクのコートを着て
優雅にタバコをふかす、遭難者には思えない優雅さ
一人の男が泳いで救命艇にたどり着いた、機関士だ
■男は他の遭難者も救助しようUボートがくる前にというが、、、女はUボートは沈んだわ、それをカメラにおさめたという。
君はジャーナリストか、死人が出れば喜んでレポートするんだろうと怒る
その後次々に遭難者をボートに上げ男4人、女2人になった。さらに黒人の船員が若い母と赤ん坊を救助しボートに乗せた。
そこに一人の男がボートのヘリを掴む、引き上げると男はダンケ、、、
メンバーはドイツ人を海に放り投げて殺すかどうかで議論になる
こいつが魚雷を撃ったのだ、しかし彼を殺したらナチと同じだと意見が割れる
■若い母親の赤ん坊が死んだ、母親はドイツ人を叩く、彼女は赤ん坊を探し海に身を投げた。それを見てあくびをするドイツ兵

残ったメンバーは
👩コニー(タルーラ・バンクヘッド) エレガントなジャーナリスト
👨コバック(ジョン・ホディアク) 機関士、コニーと意見が対立
👨リット(ヘンリーハル)、富豪の工場主
👩アリス(メアリー・アンダーソン) 看護婦
👨ジョー(カナダ・リー) 黒人船員
👨ガス(ウィアム・ペンディクス) 足を怪我、ダンサー、
👨スタンリー(ヒューム・クローニン) 通信兵
👨ウィリー(ウォルター・スレザック) ドイツ兵、戦前は軍医

■コバックはコニーに向かってあんたが大事なのは自分の記事のことだけだ死者を喜んでいるだけだ
■ドイツ兵ウィリーが方角を知っていたが、信用できるのか?ドイツ語ができるコニーが通訳をやる
船長を誰がやるか?適任者は経験者ウィリーだった
コバックは俺が船長だ、嫌なら飛び込めとあくまでもドイツ兵を信用しない、バミューダへ向かうべくウィリーに指示をする
■ガスの足の怪我が壊疽になった。切断しないと命が危ない。
ガスはジルバが踊れないと彼女に捨てられると拒否、しかしコニーの説得で手術を始めてくれと意を決する。キスしてくれコニー
ジョーにもっとアップテンポの曲を吹いてくれ、
元医者のドイツ兵が手術をすることになった
麻酔がないのでブランデーを飲むガス、
ドイツ兵ウィリーはが密かにコンパスを持っていた
■コバックはドイツ人を信用していない
■アリスは不倫をしていた過去をコニーに打ち明ける
■コバックはウィリーを怪しみ、スリの達人だったジョーに頼むと彼はウィリーのコンパスを奪った。
そこに嵐が来た、コバックは死ぬなら一緒だコニーとキスをする
嵐がさり、私も貧困街の出身なの、奇跡が起きたとカルティエのブレスレットをみるリット、あなたのせいで食料が流された、
飢えと渇きで、、コニーはパニックになる、雨が降ったが一瞬であった
■ガスはうわ言を言うようになった、ウィリーはガスを突き落とした
それに気がついたみんなでウィリーを殴りボートから落とす
もうすぐ補給船が来る、しかし漕ぎ手がいなくなった
■スタンリーはアリスに求婚、りっとは妻も子もなし残るは財産だけ
コニーは、リット、コバック、ジョーにつかっかる、そこで閃いたのは
自分のカルティエを餌がわりに魚を釣ることだった、魚が食いついた!
そこにドイツ軍の補給船が来るも、イギリス軍の砲撃で沈んだ
イギリスの船が近づく。コニーは海軍の友達に会うのに化粧が崩れてると
口紅を塗り直すその時誰かがボートのヘリを掴む、ボートに乗せると、ダンケと言った、、
沈没したドイツ船の少年兵だ。手当てをするというアリス、ウィリーのことを忘れたのか?みんなはドイツ兵を信用しない
捕虜としてウィリーを助けてやって水と食料を与えたのに裏切るとは
その時少年兵が銃を、ジョーが銃を叩き落とす
スタンリーはあの母子とガスを思い出した、ナチは人間なのか
コニーはつぶやくそれは彼らが知っているわ
ーーーあらすじ終わりーーー



思いっきりプロパガンダ臭がする本作ですが、一口にプロパガンダといってもヒッチコックの中で微妙にトーンが変化しています。
1940「海外特派員」は🇬🇧イギリス陥落の危機にあり🇺🇸アメリカよ、イギリスを助け参戦せよ!という要求
1943「救命艇」の時代はドイツ敗色濃厚となっており、ドイツ=悪と言うトーンが強い

こうして並べてみるとヒッチコック先生も戦局に応じてかなりトーンが変わってきています。
この後、国策映画の短編「闇の逃避行」「マダガスカル」を除くとプロパガンダ臭のする映画は撮っていません。

流石に本作「救命艇」はドイツ=悪が強過ぎて見てても集中が削がれるんですが、映画のオハナシそのものは良くできていると思います。

まず逃げ場のない救命艇で救助を待つ7人のイギリス人男女と1人のドイツ兵と言うシチュエーションが面白い。原作はスタインベックですがこの映画のために書いた物語とのこと。
また各キャラクターが非常に立っていて良い、特に主人公のコニー(タルーラ・バンクヘッド)がいきなり救助艇で毛皮のコート着てて、場違いなエレガントさに釘付けになる。
この女優さんよく知らないんですが素晴らしい存在感で、劇中でも我が道を行くわ、コバックに甘えて彼が読んでいる新聞紙に穴を開けて覗き込むわ、カルティエのブレスレットで🐟魚つるわ最高すぎる!
疑り深いコバック、富豪のリット、博愛精神のアリス、素朴ないい人ジョーなど各キャラがとても魅力的なのだ。

ドイツ兵ウィリーについては戦時中ということもあって人間扱いされていない描き方、ここは流石に今見るときついものがある。
しかも集団でなぶり殺しってちょっと恐ろしい場面だ。メンバーたちは殺し屋でもなんでもなくまあ普通の人ですよ、いくら裏切られたとはいえそれが集団でなぶり殺しとは、、
ヒッチコックの意図はここでドイツ人を殺して観客大喝采という狙いだったのかもしれないのですが、現代人から見るとヒッチコックの狙いとは逆に集団心理の恐怖のように見えてしまう。
さすがヒッチコック先生、自分の意図とは逆に現代の我々に恐怖を抱かせることに成功したのか。あるいはそれも含めて巧妙な狙いだったのか、、、

元々ヒッチコック映画には、笑いと恐怖が表裏一体でどっちに転ぶかわからないという意味のサスペンス要素があり、そこが魅力でもあるのですが
本作もドイツやっつけて大喝采!と見せつつも実は集団心理の恐怖を描くという巧妙なダブルバインドなのかもしれません
ちょっと文脈は違いますがバーホーベンが「スターシップ・トゥルーパーズ」で描いた軍国主義礼賛表現が笑えるし同時に怖いみたいなものかも
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