おおき

救命艇のおおきのレビュー・感想・評価

救命艇(1944年製作の映画)
4.5
ヒッチコックの作品はこんな秀作ばかりなのかと思ってしまうほど、この映画は緻密に作られていました。舞台は最初から最後まで、救命艇の中で起こっており、登場人物も非常に少ない10数名だけなのですが、その舞台の狭さを感じさせないストーリー構成になっていました。今作と似た設定の作品で1つの舞台で劇が行われるtwelve angry manを見たことがあるのですが、今回はその映画にはなかったスリルがありました。さすがスリラーの巨匠、観客の感情をコントロールするのがうますぎです。彼の作品はほとんど初めてだったのですが、他の作品もこれからみようと確信しました。
 ストーリーの初めは、豪華客船がナチスの魚雷攻撃により、沈没し、その中で、1船の救命艇だけが浮かんでいるシーンから始まる。その船には、1人の女性が乗っていた。彼女は雑誌の記者なのだが、彼女の身なりは船の沈没から免れた人物とは、思えないほど、きれいだった。その救命艇に向かって、何人かの人々が集まってくる。屈強な男や、沈没した船の操縦士、従業員、軍医、そして負傷した乗客など、次々にやってきた。その後、さらに1人がその船に乗ったのだが、なんとそれは、魚雷を発射した船の乗組員だった。彼の乗っていた船は魚雷の爆風により大破してしまったらしい。彼らは非常に動揺した。彼はナチスのスパイで、我々を誘導して、補助船に連れていくのか、と困惑していた。何人かは彼をこの船に乗せるのを拒んでいた。しかしそれはつまり、彼に死を宣告するのと同等だったため、結局は彼を船に留めさせることにした。一時的に1船の救命艇で共に過ごさざるを得なくなった若干名の男女はこれから先どのような出来事に見舞われるのか、そして乗船したドイツ人の男は本当に助けを求めていた乗組員なのか、それとも…。
今回の映画での魅力はなんと言っても、他者への尊厳だと思います。考え方が違う人々がどのようにして、自分の信念を曲げることなく、他者と関係性を築いていくには、どのような考え、それに付随した行動や態度が必要なのか。それらを知ることができる映画だとも思いました。また、今作も戦争の背景が組み込まれているため見たのですが、この作品を見ても、戦争がもたらす無意味さを感じることができます。彼が敵国の乗組員というだけで、彼の信用は無くなってしまう。戦争は皆が協力しなければならない救命艇などの状態でもさまざまな影響があるのかと感じました。この映画も今だからこそ見るべき映画だと思います。映画としての出来もさることながら、学びも非常に多い作品となっていました。多視聴したい映画にこれも追加されました。
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