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救命艇のodyssのレビュー・感想・評価

救命艇(1944年製作の映画)
3.5
【極限の状況下の人間模様――ヒッチコックの映画(その10)】

最近DVDにて鑑賞。モノクロ・スタンダードサイズですが、それにしても画質は悪いし、音声の状態も芳しくありません。字幕があるから会話の意味は分かりますが。

第二次大戦中にドイツのUボートに撃沈された客船に乗っていた数名が救命ボートで何とか助かりますが、そこに(ドイツ軍のUボートも撃沈されたので)ドイツ人が泳ぎ着きます。方向も定かならぬ中、ボートはバミューダと思しき方向に進み始めるものの、内輪もめや様々な人間関係のしがらみが・・・・。

最初、一人だけ救命ボートに乗っている女性記者のタルーラ・バンクヘッドが印象的。かろうじて命が助かってという緊迫した場面なのに悠々としていて、冷酷に現場を観察している。記者だからといえばそれまでですが、ちょっと高ビーというか、世間離れした性格なのかと思います。しかし、この辺も筋書きが進むにつれて色々事情があるのだと分かってきます。

捕虜のはずのドイツ人が、その知識から実質的な船長格になってしまうところが面白い。ただ、このドイツ人の性格付けはイマイチよく分かりませんでした。ネタバレになるから詳しくは書きませんが、特に足を手術してやった男の扱いで最後近くの場面が。これは、結局他の同乗者たちを憤激させるための手段だったのではないか、という気がします。ヒッチコックにありがちな不自然な筋書きではないかと。

しかし、極限の設定の中で人間模様を描いた映画としては悪くない出来でしょう。

戦時中の作品ですが、戦意高揚的な映画ではないし、ドイツ人を一方的に悪役にする映画でもないというところが、アメリカという国の奥行きを感じさせると言えるかも知れません。
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