バンバンビガロ

救命艇のバンバンビガロのレビュー・感想・評価

救命艇(1944年製作の映画)
3.7
ドイツ軍の攻撃により沈没した船の救命艇に乗り合わせた人々の密室劇。
救命艇に一人のドイツ兵が救助されたことから物語が始まっていくのだが、面白いのは救命艇に乗る人物配置が当時の現実社会の縮図のように思えるというところである。
この映画のドイツ兵は非常に多才かつ有能、サバイバル能力に長け決断力とリーダーシップを持った人物として描かれ、弱者を排除する描写からも当時のナチスドイツのイメージを集約させたような存在である。それに対してアメリカ人たちは意見も立場も違う人々が常に言い争いながら何かを決めていくという形になっており、そこに民主主義のイメージを見てとることできる。
明確な目的意識をもって行動するドイツ兵に対してアメリカ人たちは皆どこか頼りなく見える。基本的に意見は食い違い、決断を下す過程で対立が起きたり、感情に流されて暴走し、明後日の方向へ進んでしまうこともある。これは完全にダメなシステムとしての民主主義を描いている。優秀だが非情な独裁的システムとの対比で優柔不断で欠陥だらけの民主主義を皮肉りながらそれでもこの映画は明確に民主主義に価値を置いているように見える。
この映画は最後新たに乗り込んできたドイツ兵の若者の処遇を巡って話し合うその途中で結論を見せずに終わる。おそらく監督=権力者によって明確な結論が与えられるのではなくそれぞれが問題を引き受けて考えることを意図した演出であると思う。
民主主義は波に揺られる救命艇ように脆弱で不安定な存在でありながら、しかしそこにとどまる他に道はない。何事も正面からは見せてくれないヒッチコックらしいひねくれを感じさせる政治の描き方である。
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