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ルートヴィヒ 完全復元版のHiromasaのレビュー・感想・評価

ルートヴィヒ 完全復元版(1972年製作の映画)
5.0
4時間もあるが、余裕のある作りになっていて、意外と最後まで見れる。浪費と退屈の中にある豊饒な可能性。特に、ワーグナーが奥さんの誕生日プレゼントにオーケストラを演奏させるシーンが良すぎ。

大岡昇平の『俘虜記』という小説がある。戦争中のフィリピンで日本兵の大岡昇平が、米兵と遭遇する話だが、これを井伏鱒二が読んで、「日本軍が大岡を食わせてフィリピンまで送り込む費用、そしてアメリカ軍が米兵を送る費用。こんだけ元手がかかってるんだから、いい作品ができて当然だ」と言ったという。不謹慎だが『黒い雨』だって、原爆という莫大な元手がかかってるからこそ、あれだけの傑作が書けたとも言えるわけだ。
要するに、良い芸術には金がかかるというのがこの映画のテーマだろう。
現代人は貧乏性なので、芸術を見ても「生きる元気をくれる」とか「人生の糧になる」とか評価しがちだが、考えてみればこれほど傲慢な価値観もない。もちろん、ヴィスコンティは没落貴族であり「小説」も「映画」も大衆のものでしかあり得ない。それでも、この作品を見るとしみじみと我々の視野の狭さを痛感できると思う。
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