えそじま

ルートヴィヒ 完全復元版のえそじまのレビュー・感想・評価

ルートヴィヒ 完全復元版(1972年製作の映画)
4.7
ヴィスコンティ、ドイツ三部作の最後。『地獄に堕ちた勇者ども』ではナチス時代の嫌悪に充ちた美を、『ベニスに死す』では本物の美への驚きと喜びが老いた夢に結びつくさまを、そして最終作にあたる本作では、ワーグナーに耽溺し、芸術愛好という個人的嗜好のために国庫を傾け”狂王“と呼ばれたルートヴィヒ二世の頽落の美を、冬のドイツの雨と雪と霧と陰鬱な壮麗さのなかで、緩慢な滅びの時間の流れに沿って映像化した。

「不幸にして彼は国王であった」という視点から考えてみたとき、往々にして狂人と天才は紙一重であることが頭を過ぎり、これが俗世を生きる詩人であれば、あるいは画家であればひょっとすると天才作家、芸術家として後世にも讃美されつづける世界線があったかもしれないと空想せざるをえなかった。冒頭の華麗な戴冠式で王となるまさにその直前に、震えながら酒をあおる繊細な後ろ姿、何度か窓越しに外を見つめる姿にその天涯孤独と哀訴を感じる。
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