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ルートヴィヒ 完全復元版のメルのレビュー・感想・評価

ルートヴィヒ 完全復元版(1972年製作の映画)
4.3
19世紀中頃、ドイツ南部に位置するバイエルン王国で18歳と半年の若さで国王となったルートヴィヒ2世。
彼の半生を、身近にいた人達の証言を交えながらヴィスコンティの拘りのカメラで描く超大作。

40年という短い人生の中で彼に大きな影響を与えた人物が2人居た。
その1人はドイツの作曲家ワーグナー。

ワーグナーの大ファンだった彼は周囲の反対を押し切ってパトロンとして多大な資金援助をしている。
豪華な家、彼のための劇場建設、おまけに今までのワーグナーの借金の返済まで。
ワーグナーも2度目の妻コジマ( リストの娘 )もルートヴィヒを上手に利用している。

ワーグナーとコジマはそれぞれに妻と夫がありながら同棲していて3人の子供も生まれている。(ここにも1つのストーリーが有りそう… )

そしてもう1人はオーストリア最後の皇帝フランツ・ヨーゼフの妻となったエリザベート。
エリザベートとは叔父の従姉妹という関係で親しい間柄だった。
ヨーロッパ随一の美貌と讃えられたエリザベートと、若い頃はその美しさのため多くの画家によって肖像画が描かれたルートヴィヒと弟オットー。
この一族は歴史に残る美男美女の家系なんですね。

エリザベートに恋心を抱いていたルートヴィヒだったが、何といっても彼女はオーストリア皇妃で3人の子供も居た。
エリザベートはとても現実的な考えが出来る人間だったので、彼を弟のように心配し国王として先ず結婚をすることを勧めた。

しかしルートヴィヒにとって結婚や現実的な様々な問題は避けて通りたい事柄だった。そして、自身が男性に興味がある事にも気付いていく。

豪華な俳優陣はヴィスコンティお気に入りの面々。
ヘルムート・バーガーは若く美しい国王時代から「狂王」と囁かれる後半生まで、体型も表情も黒く残る虫歯の跡までも見事な変貌振り。

ロミー・シュナイダーもエリザベート自慢の長い髪、得意な乗馬姿、少し勝気な性格まで上手に醸し出していた。

ワーグナー役のトレヴァー・ハワードは顔が本当に良く似ていてびっくり!
妻のコジマは「ベニスに死す」で少年タージオの母親役だったシルヴァーナ・マンガーノ。実物のコジマよりかなり美しいかも。

財政難を顧みず多くの城を次々に建てた事も議会のひんしゅくを買う原因となった訳だけど、ディズニーランドのシンデレラ城で有名なノイシュヴァンシュタイン城、神話の世界をそのまま再現しようとして白鳥のボートも浮かべてあるヴィーナスの洞窟が地下にあるリンダーホーフ城、ベルサイユ宮殿の鏡の回廊より8mも長い回廊のヘレンキームゼー城など、それはそれは豪華な城ばかり。

彼の夢の世界を邪魔しない様に、人が出入りしなくても食事のテーブルが床下から上がってくる作りになっているお城もあって感激!食事が済むとテーブルはそのまま床下に消えて行く…(笑)

隠遁中のルートヴィヒに会うためエリザベートがこれらの城を次々に訪ね歩くシーンがあるけれど、ヘレンキームゼー城の長〜い長〜い鏡の回廊を( 98mあるらしい )歩きながらその壮大さに大声で笑いだす場面は印象的です。

そしてこれらの現存する城が今ではドイツ観光の目玉となるロマンチック街道に含まれて、多くの観光客を迎えているのは皮肉でもある。

最後にもう一つ、ルートヴィヒの謎の死の現場シュタルンベルク湖のほとりに建つベルク城。
王の死後全く手を加えられていなくて歴史的にも価値が高いとして、今は記念館になっているそうだ。
そこには彼の死を偲ぶ礼拝堂が建てられたり、湖の岸には十字架が立てられたりしている。

莫大なお金をワーグナーと城に注ぎ込んで議会から罷免されたけれど、戦争を嫌い、夢を追いかけた王様のことを国民は意外にも愛したのかも知れない。
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