こなつ

チャーリング・クロス街84番地のこなつのレビュー・感想・評価

4.0
実在の作家ヘレン・ハンフの同名の随筆が原作。アン・バンクロフト、アンソニー・ホプキンス、ジュディ・デンチという豪華キャストによる心温まる珠玉のヒューマンドラマ。

1949年、ニューヨークで暮らす貧乏女流作家のヘレーヌ(アン・バンクロフト)は、安い値段で買える絶版本を探していた。ある日新聞広告でロンドンのチャーリング・クロス街にある古書店Marks&Co.のことを知る。手紙で注文をすると、その古書店に勤める店長のフランク(アンソニー・ホプキンス)からずっと探していた本と一緒に丁寧な返信が届いた。これがきっかけで二人は文通を始めることになる。古書店の5人のスタッフだけでなく、フランクの妻(ジュディ・デンチ)まで巻き込んでやりとりをするうちに、単なる友情を越えた親密さを感じていく。会うことも出来ぬまま20年が過ぎた頃、へレーヌはフランクの死を知らされ、深い悲しみに涙する。

ロンドンの街を走る2階バス、テレビに流れるエリザベス女王の戴冠式の様子、ニューヨークの大学紛争、アメリカとイギリスの当時の時代背景やその対比も描かれていてとても興味深い。

皮肉たっぷりの文面や時には怒ってフランクを攻撃するへレーヌに対し、フランクの誠実で思いやりのある対応はまさに英国紳士そのもの。またへレーヌも食料難で配給制のロンドンの状況を知り、缶詰や肉や卵などを送ってみんなを喜ばせる。ネット社会の今の時代には考えられない文通だけでの心の繋がりがとても丁寧に描かれている。細やかな心遣いは、日本人の感覚にどこか似ている。

「奇跡の人」のサリヴァン先生があまりに強烈な印象で、その後の「卒業」でダスティン・ホフマンを誘惑する年上の女性となかなか結びつかなかったアン・バンクロフト。この作品での女流作家へレーヌの演技も見事で、幅広い役をこなす女優さんだが、2005年に73歳で亡くなっている。
また、若いアンソニー・ホプキンスも誠実な英国紳士を見事に演じていて素晴らしい。

古書店の独特な雰囲気が作中では味わえ、文学を愛する者同士の信頼感が心地良い。
決して派手さはなく静かな物語だが、確かにその古書店がそこにあったという実際の話故に感慨深く、心に沁みた。

今は地中海料理店になっているというその店舗の壁には、「Marks&Co.」の文字が今もなお残っているそうだ。
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