ゆかちん

チャーリング・クロス街84番地のゆかちんのレビュー・感想・評価

3.2
ゆったりとして、きゅーんとくる映画。
静かで穏やかに進んでいくけど、退屈さはなく、その静穏さがじんわりとくる。
なんだか切ないところもあるんだけど、かけがえのない素敵な宝物を見せてもらった気分になれて、見て良かった。



NY在住の女流作家ヘレーヌ・ハンフ(アン・バンクロフト)が新聞広告で観たロンドンの古書店に稀覯本の注文を出すと、店主のフランク・ドエル(アンソニー・ホプキンス)から丁寧な返信と共に目当ての本が送られてきた。
小踊りした彼女は以来、古書とともに文通という形で単なる友情を越えた感情を、その古書店主と、以後20年以上に渡って分け合っていくことになる……。



会ったこともない、国も違う人たち同士の手紙による友情物語。
恋愛とかではなく、友情なんだけど、もっとこう、ソウルメイトみたいな…そういう関係というのも良かった。

でも、その文通内容は常に感動的かというとそういうわけではなく笑、ヘレーヌは表裏なく文句はいうし、ジョークや皮肉を交えている。でも、それを読んだフランクはそれを面白がり、彼女の意図も読み取り、英国紳士らしく返事するのがまた良い。

あと、戦後、アメリカは普通の生活ができているのに対し(もちろん、貧富の差とかそういうのはあったやろけど)、イギリスは食料は配給やし、闇市もあるほど貧しい状況というのは、そうなんや〜と。

で、この文通がヘレーヌとフランクの間だけでなく、アメリカのヘレーヌのアパート仲間や、書店で働く従業員たちやフランクの奥さんも巻き込んでやり取りが続いていくのも素敵。
なんか、人間の美しい部分を見せてくれたようで温かい。古き良き時代…なのだろうか。
イギリスの状況を知ったヘレーヌがアパート仲間と相談して書店の人たちに彼らが中々手に入らない食料などを送るっていうのも、なんか素敵なんだよな。素直な善意。

でも、20年以上の時間を追っていく話なので、その従業員たちも書店を辞めたり、時の流れを感じる切なさみたいなのもあった。

お金を貯めたからイギリスに行って会えるかもしれないというときに、行けなくなったヘレーヌ。
それを知って静かに落胆しているフランク。
とても残念で切ない。
そこから、結局会えないまま時はすぎ…。。

それでも、最後のシーン。
ヘレーヌの「フランク、やっと来たわ」と微笑んだ彼女の表情がたまらなくて思わず涙が…。。
切ない部分や後悔もあるんだろうけど、決して悲しいだけではないし、喜びもあるし、達成感もある。そして、必ずあなたに届いているはずという想い。そういう色んな感情を包含して、しかも、あの手紙を送っていた"ヘレーヌらしい"微笑みだった。

このお話、本が原作なんだけど、実話なよう。それを知ると更にじんわり。。


ヘレーヌ役をアン・バンクロフト。
自由奔放でハキハキしてる女性。表裏なくバタバタしつつ、自分の意思で生きている。決して裕福ではないし、こだわりも強い変わり者。でも、人を想う優しい気持ちも人一倍で素敵やった。

フランク役にアンソニー・ホプキンス。
とても素敵な英国紳士。苦労はしてるけど、大切な家族も書店の仲間もいて、真摯に誠実に暮らしている。

フランクの奥さん役にジュディ・ディンチ。
言葉少ないながら、何かを考えている表情。
フランクとヘレーヌとのやり取りについても、何も表に出さなかったけど、最後のヘレーヌへの手紙で、ヤキモチは妬いていたという。そりゃそうよね。
妻となるような愛情ではないかもしれないけど、妻でも入れないようなソウルメイトのような繋がり。
それでも、別にフランクもヘレーヌもそんなことは思ってないと知ってるからこそ、その気持ちをグッと堪えていたという。

アンソニー・ホプキンスもジュディ・ディンチも、貫禄ある老紳士や老婦人の役を多めに見てるから、まだ若い頃の2人の演技を観れたのも良かった。


20年という時の流れ。
合間に、なんてことはないイギリスアメリカそれぞれのひと時とかを表しているところも、それぞれの人生を追うようで良かった。

戦後の生活についても知れるのも良かったな。
あと、途中から手紙の内容をカメラの方に向かって語りかける…今でいう第四の壁を越えてくる…演出もよかった。


今はインターネットがあるからすぐに連絡出来たりするけど、こういう時間差も生じる手紙のやり取りっていうのも、また味わい深くていいなぁと。

あと本当は会ってほしかったとは想うけど、すぐに連絡できるわけでもない、会えない関係というのも、他の人とは違う、また特別な関係なのかもしれないなぁとも。

人の良い部分や人生の機微をじんわり感じられる作品でした。
ゆかちん

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