垂直落下式サミング

帝都物語の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

帝都物語(1988年製作の映画)
4.0
「見えざるは無きにひとしい。」

加藤保憲が、幸田露伴の施した目眩ましの結界術を破るときのセリフ。正体も戦いの動機も途中まではまったく不明の謎の男だが、セリフだけで強さと危険性がわかるっ!強者のレトリック!
本作のおもしろさは、嶋田久作の演じる加藤という悪党の魅力に集約される。長身で憲兵服姿の得体の知れない呪術師。どうやらヤバイらしい。ストップモーションの悪鬼を操りドーマンセーマン。式神を使役する飛び道具系ボスは本体が弱いと相場が決まっているのにもかかわらず、地面からまっすぐ延びる背筋は近接格闘もどんと来いとでも言いたげな自信に満ちた風体だ。
いろんな悪鬼を使役して暗躍。白昼堂々、拐った少女を脇にかかえて歩道を疾走する強フィジカルをみせる。さらに最終決戦では、謎の八つ裂き電鋸ドローンとかも操ってくるツワモノ。並みの陰陽師では太刀打ちできないのも納得な圧倒的技のデパートっぷり。
舞台は大正時代末期。伝説と科学が交わり、帝都に陰陽師が躍動。蠱術だの奇門遁甲だのの妖しげなワードが次々と出てきてワクワクっ。こちとらスピってっからよ。
呪術的世界に説得力を持たせるために、映像技術の粋をこらして表現を突き詰めており、特撮の名手・実相寺昭雄のセンスが光る。
ストップモーションやミニチュアを多用していて、式神や悪鬼などの存在感を表現。お札がクシャクシャッ!っとなるとカラスになって飛んでいく冒頭もスゴいが、好きなのは腹中虫のシーンだ。
めっちゃキモくて好き。白いたい焼きみたいな色で、体液にまみれていて、さらに太い毛みたいなのが三本くらいぴょんと生えてるのがゲロゲロ。
女の人が、おえええとイモムシのようなものを吐き出したかと思ったら、床に落ちたそいつにバッタのような後ろ足が生えて小さく鳴き声をあげる。キモチワルイ!次のシーンではもう干からびているから、宿主の体内に入り込んで害をなすが、体外に出ると死んじゃう寄生型の妖怪なのだということがわかる。
CGの発達した現代だったら、口から虫が出てきて死んじゃうまでを簡単に作れるのだろうけど、特撮だとそうやって都合のいい小回りはきかないから、目の離せないカットの切り替えでシークエンスの連なりを観客に伝える。その手腕。見事でした。
平将門の怨霊の眠りを妨げようとしたことにより、関東震災がおこってしまうところも素晴らしい。こわもての勝新が白と黒の部屋でミニチュアの被災地を眺めるシーンは、無情感ともの悲しさにみちていた。
実相寺昭雄らしさは満天であるが、本来はもっと長く壮大な原作を端折りに端折ったダイジェスト実写化感は否めないし、ちょっと凝りすぎて見辛くなっているフシもある。表現に傾倒しすぎてエンタメとして飲み込みづらいのはマイナス。
ヴィジュアルイメージ全振り。二時間の映画で尖り散らかしてるのはちょいキツイし、こんなやり方してたら常に画的な驚きがないと世界観がほころんでしまうと思うのだけれど、その方向で映画として成立させてしまう実相寺マジック。
当時の特撮だから、多少はチープさに足を引っ張られているところもありましたけどね。いま見ると。若い石田純一が真面目な顔して出てくると、途端に安っぽくて、笑いがこぼれてしまう。