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ステイト・オブ・ウォーのBalthazarのレビュー・感想・評価

ステイト・オブ・ウォー(2005年製作の映画)
3.5
原題はIluminados por el fuego (火に照らされて)
2005年アルゼンチン映画

トライベッカ映画祭2006では最優秀作品賞を、サン・セバスティアン国際映画祭では審査員特別賞を受賞。
印象深いエンディング曲はLeon GiecoのPara La Vida。

軍事政権下のアルゼンチン。
政府は国民弾圧、経済問題の不満をそらすためにナショナリズムを煽り立て、フォークランド諸島を大国イギリスの手から奪還しようなどと無謀な作戦を立案した。

18歳の時に戦地に赴いたエステバンは29年後の2001年、同じく帰還兵で戦友バルガスの自殺を目の当たりにし、彼自身のマルビナス島での記憶が鮮明に蘇る。

フォークランドがあれほど痩せ細った険しい極寒の地であることを知る。
(海底に石油があるともいうが)なんの戦略的価値もない島を巡って、政府の決定ひとつ、“国家の威信”、それだけのために戦場へ送られる若者たち。勝ってくるぞと勇ましく、惨めに負けて帰れば今度は唾を吐きかける無責任な大衆。彼らの心は外からは見えないだけで、ずたぼろに引き裂かれた。

戦争に敗けるとはいったいどういうことか。
なんと、アルゼンチンでは戦死者に相当する人数の帰還兵が精神的苦痛から自殺したという……。

戦争を描いた作品は星の数ほどあるけれど、負け戦を戦った兵士が語られた作品は数少ない。

「戦争映画」と言ってもドンパチ派手な戦闘シーンはほとんど無く、飢えと寒さの行軍、貧相な装備、圧倒的に強いイギリス軍、そんな中での兵士の心の痛みがメインに描かれる。実際、戦場での歩兵の生活もそんなものだろう。

日本人にとっては戦争といえば白黒フィルムの、現実感のない遠い70年以上も前の過去の話だが、フォークランド紛争が起きたのは1982年、当時10〜20代だった兵士達はまだ50代。苦い記憶は鮮明に残っている。
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