ガリガリ亭カリカリ

ポゼッションのガリガリ亭カリカリのレビュー・感想・評価

ポゼッション(1981年製作の映画)
5.0
オールタイムベスト。夫婦間の亀裂と米ソ冷戦を重ね合わせたただ一つの映画。

マリッジ心理ドラマであり、ぐちょぐちょホラーであり、スパイアクションとも化す謎ジャンル映画で、終始観客に揺さぶりを掛けながら、まるで観る者も劇中のアンナとマルクの如く疲弊させるマジックがある。

イザベル・アジャーニ優勝映画。地下鉄の絶叫やイカちゃんセックスはもはや伝説だけれど、幾度とあるガンギマリなカメラ目線が全部怖い。キリスト像とアンナの切り返し、その時のアンナが発する仔犬の鳴き声みたいな喘ぎ、アジャーニお得意の下げ眉困り顔、全部ヤバい。
台所で生肉を電動包丁で切りながら、ミートチョッパーに肉を入れ続けるアンナ、に向かってしつこくキレてしまうマルク。その時間のヤバさ。頼むから今この状況で喧嘩はやめて〜とビクビクしていると、あのアンナの絶叫。ホラーとして完成されている。

浮かんでいる犬の死体。「あの犬は老衰で死んだじゃないぜ」「滅びかけたこの世界をもう一度救ってくれ」最高にかっちょいい。

イカ目撃者の殺害方法がシンプルながら全部過剰でどろどろでヤバい。まるでどろどろと液体に塗れないと絶命することが出来ないかのような世界。登場人物全員がイカれてるのが超信頼できる。

移動し続けるカメラが最終的にジェイコブスラダー的な螺旋階段を前にして上を目指す、そして人物の落下を機に元の地点に戻る的確さ。東西ベルリンの壁と入ることのできないドア。恋愛と戦争の酷似した構造。第三次世界大戦への予感。恋愛が戦争と同じように世界を滅ぼした唯一の映画。