櫻イミト

恍惚の悪魔 アカサヴァの櫻イミトのレビュー・感想・評価

恍惚の悪魔 アカサヴァ(1971年製作の映画)
2.5
ユーロ・トラッシュホラーのジェス・フランコ監督が初期にやっつけ仕事で作った低予算スパイ映画。伝説の女優ソリダッド・ミランダが助演。原作はイギリスの人気ミステリー作家エドガー・ウォレスの「The Akasava」(1911)。

【物語】
南米アカサヴァの奥地。英国の科学者フォレスター教授はあらゆる金属を純金に変える放射線を放つ鉱物を発見した。この放射線を人体に浴びると顔が黒く変色し重傷を負う。この鉱物が何者かによって盗まれた。イギリス警視庁は女諜報員ジェーン(ソリダッド・ミランダ)を現地に派遣。彼女はヌード・ダンサーになりすまし情報を集める。敵・味方入り乱れての争奪合戦が始まった。。。

閣下殿のリクエストで鑑賞。

残念ながら予想通りの凡作だった。初期フランコ監督の持ち味である前衛性や耽美性はない。音楽だけは前二作「ヴァンピロス・レスポス」(1970)「シー・キルド・イン・エクスタシー」(1970)と同じくマンフレート・ヒュブラー&クフリート・シュワップが担当し相変わらずのグルーヴ感が楽しめた(前二作からの使いまわしもあった)。

物語は求心力に欠け面白くなかった。序盤は音楽やズームの多用、登場人物のファッションなどが「キーハンター」(1968~)での深作欣二監督のようだとそれなりに楽しんで観ていた。ミランダ定番のステージ・ショーも織り込まれていたのだが・・・明確な主人公キャラがいないため途中で話に乗りづらくなり飽きてしまった。終わり方は投げやり感が強く、制作上の特別な事情でもあったのかと疑うほどだった。

初期のフランコ監督は大部分の脚本を自ら手掛けているが、本作は与えられた脚本で撮っている。こうしたスパイものは当時のヨーロッパで大流行し乱造されていたのでそれに乗じた映画会社の企画だったのだろう。この西ドイツの映画会社とは三本契約を結んでいたようで、本作の雑な仕上がりを見る限り、おそらく前二本で予算と日程を使いすぎたのではないか。

この時期はフランコ監督のライフワークであるマルキ・ド・サド原作シリーズ「ジュリエット」をミランダと撮る準備が進められており、既にそちらに気が向いていたと思われる。しかし、本作撮影後にミランダが事故で急逝し「ジュリエット」も幻になってしまった。

日本版DVDジャケットでは「ミランダ&フランコのコンビが放つカルト・ムービー三部作完結編」などと宣伝文句を謳っているが、本作が含まれる”三部作”呼称など他では聞いたことがないし、あまりにも二人に気の毒だ。あえて二人による三部作を挙げるなら前三作「ヴァンピロス・レスポス」「シー・キルド・イン・エクスタシー」、監督がミランダのベストと語る「悲惨物語」(1973:撮影は1970)で括るのが妥当と思われる。

本作撮影直後のミランダとの別れ&本作でのやっつけ仕事を機に、フランコ監督の一般映画界での全盛期は終焉を迎え、次なる第三期”ユーロ・トラッシュ・ホラー”への道がスタートすることになる。
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