YasujiOshiba

氷の挑発2/曲解のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

氷の挑発2/曲解(2006年製作の映画)
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シチリア番外編

ロベルタ・トッレが初めてシチリア以外で撮った作品。早い話が、ロ・カッショの演じる刑事が囚われてゆく妄執を描きだす心理劇。

ダニエーレ・チプリーのカメラは、がんばってる。カラーはほとんどモノクロームとなり、白い世界と黒い世界のなかに陰影を追い、赤と黒のコントラストが嫉妬の引き金となる。白、黒、赤、の三色で成り立つ映像。

アンナ・ムグラリスは、その身体にロ・カッショの眼差しを引きつける。フランス人のイタリア語は秘密を帯びた響きとなる。フレーズのひとつひとつの背後に、なにか別の意味を隠しているようにも聞こえる。

そしてロ・カッショは刑事。アンナとの出会いが、夜の世界に働く女子大学生の殺人事件と平行する。あちらとこちら、交わるはずのないパラレルワールドが、ロ・カッショのなかで交わり始める。その交わりから立ち上がる闇が、この映画の主題だ。

スキャンダラスでもある事件、夜の世界の女たちと男たち、『アイズ・ワイド・シャット』(1999)を思わせる出会いの場、縛られる女と殴る男、暴力と血のなかに浮かぶ微笑み、その全てにロ・カッショが依代となる刑事は少しずつ翻弄され、崩れてゆく。

もしかするとロベルタ・トッレは、雄々しいものを未知なるものとして解体し、理解しようとする、そんな試みなのかもしれない。もちろん、その雄々しさは、シチリア的なものと呼んでもかまわないはずだ。

それにしてもトッレは、カメラマンだけではなく、音楽家にも恵まれている。この映画の音楽もよい。梅林茂の響きがなければ、違う映画になっていたかもしれない。

前作の『アンジェラ』(2002)が東京に来たときに、上映のあとで近づいてきたのが梅林茂だったという。自分が別の映画のために書いた曲に似ているからというのだが、さもありなん。ロベルタ・トッレは梅林のファンだったというのだから。

原題は「黒い海 (Mare nero) 黒い海」。その暗い闇のなかから引き上げられる壊れたマリア像から始まるこの映画。そのラストシーンは、トッレらしいポジティブなメッセージと読んだ。それは信仰告白とでもいえるものだけれど、けっして嫌な感じはしない。むしろ、彼女の強さはそこにある。
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